意外性が人間をワクワクさせる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(21)】
以前のことですが、女房とドイツのロマンティック街道を旅した時、意外な経験をしました。フランクフルトを出発し、憧れのノイシュヴァンシュタイン城を目指すコースでしたが、途中、ローテンブルクなどに寄り、その日はネルトリンゲンの小さなホテルに泊まることになりました。翌朝、朝食までに時間があったので、近くを散策することにしました。何げなく、ある角を曲がった途端、前方にゴシック建築がすっと聳えているではありませんか。朝早いため、未だ誰も歩いていない、中世の雰囲気を濃厚に漂わせている町での、思いがけない出会いです。一瞬、自分が中世人であるかのような錯覚に襲われました。その後、楕円状に町を取り巻いている市壁上の屋根付き回廊を巡り、町全体を眺めることができました。ホテルに戻り、ガイドブックを見て、この建築は15世紀に建築されたザンクト・ゲオルクという教会の塔だと知りました。
閑話休題、『先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています!――[鳥取環境大学]の森の人間動物行動学』(小林朋道著、築地書館)は、ファンが多い「先生!シリーズ」の第8弾ですが、本書も「意外性」に満ちています。
例えば、「森のダニは水のなかでも1カ月以上も生きる――ミズダニでもないのに! これはすごい発見だ!?」の章では、こんな具合です。「私が子どものころから、そして今も土壌動物にひかれる理由の一つは、『枯れ葉や倒木や土などが織りなす、一見、混沌としたジャングルのような世界のなかでひそやかに生きている、さまざまな生物への好奇心、というか、ワクワク感』である。じーっと観察していると、こちらが驚くような行動を見せてくれる動物もいる」。・・・「続けて見ていると、またまたいろいろ思わぬことが起こった」。・・・「そして、もう一つ驚いたのが、ワラジムシの『取っ組みあい』である、『取っ組みあい』ですよ」。・・・「もう一種類、私がへーっと思った、子を守る土壌動物の話をしよう」。・・・「ところで、私はかねがね、ある土壌動物について気になっていることがあった。その土壌動物とはダンゴムシとワラジムシで、気になっていたのは、彼らの『水入り』行動である」といったように、意外性の連続なのです。
豊かな自然に囲まれた鳥取環境大学という小さな大学を舞台に、「地球のなかで人間が暮らしていくためには、衣・食・住・エネルギー、そして、心と体に大切な五感を与えてくれるたくさんの野生生物の存在が必要だ」と確信している小林先生と、その教え子の学生たちが繰り広げる、動物と植物と人間の笑いあり涙ありの事件の数々。人間動物行動学の視点から描かれているこのシリーズが、巻を重ねても「意外性」を失わないのは、それこそ意外です!