「江戸しぐさ」は、江戸の庶民とは関係のない、昭和の創作だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(26)】
企業人生活を卒業後、早いもので1週間が経ちました。目標とする「読む(年間730冊)」「書く(年間660篇)」「深める(太極拳)」の進行については心配していませんが、難関は「歩く(1日10.000歩)」です。企業人だった時分は、朝晩の通勤でかなりの歩数を稼げたのですが、それがなくなった今は、自分で意識して歩かないと目標に達しないからです。
心地よい秋風を受けながら、女房と野道を行くと、驚いたトノサマバッタやイナゴが乱舞し、飛び交うアキアカネたちの翅が陽に輝きます。朱色に色づいたカラスウリを見つけたり、私の一番好きな鳥・オナガの一団がギューイギュイギュイと鳴き交わすのに出くわしたりと、自然を満喫して我が家に帰り着いたら、歩数計は13,429歩を示していました。
閑話休題、『江戸しぐさの正体――教育をむしばむ偽りの伝統』(原田実著、星海社新書)を読み終わって、残念な思いに囚われました。以前、東京の地下鉄の駅に貼られたポスターで紹介されていた「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」といった「江戸しぐさ」に秘かに共感を抱いていたのに、本書で、「『江戸しぐさ』なるものは、江戸の庶民とは関係なく、1980~1990年代に芝三光によって創作され、主に芝と越川禮子とのやり取りを通して現在の形になり、芝の没後に越川と桐山勝の宣伝により世間に浸透した」ということが実証的に明らかにされているからです。
「江戸しぐさ」の「発明」者・芝の1989年11月24日付の発言が興味を惹きます。「このごろ一番こまっていること。江戸しぐさが、ひとり歩きしていることです」と、芝自身が「江戸しぐさ」の独り歩きを警戒し始めているのです。
著者・原田実は、偽史・偽書の専門家であり、偽書『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』の正体を明らかにした研究者だけに、「江戸しぐさ」の正体を暴いたプロセスも反論不能なレヴェルの説得力を有しています。著者は、「江戸しぐさ」が現在の保守政権によって教育現場にまで持ち込まれていることに危惧を抱いて、本書をまとめたと述べています。