本の虫が薦める、ビジネスに役立つ教養書108冊・・・【続・リーダーのための読書論(46)】
本の虫
『ビジネスに効く最強の「読書」――本当の教養が身につく108冊』(出口治明著、日経BP社)を読んで、驚いた。
「私は本の虫です。無芸無趣味のナマケモノで、一緒にいて楽しい家族や友人がいて、普通にご飯が食べられ、楽しく酒が飲め、ぐっすり眠れたら、人生では後は何もいらないと心底思っています。そして、空いた時間は、もっぱら読書と旅に充てています」という著者の性癖と、私のそれがあまりにも似通っているからだ。その上、「リーダーシップを磨くうえで役に立つ本」「人間力を高めたいと思うあなたに相応しい本」「仕事上の意思決定に悩んだ時に背中を押してくれる本」「自分の頭で未来を予測する時にヒントになる本」「複雑な現在をひもとくために不可欠な本」「国家と政治を理解するために押さえるべき本」「グローバリゼーションに対する理解を深めてくれる本」として挙げられている108冊のうちのかなりの部分が、私の好きな本と重なっているからである。
紹介ぶり
その紹介ぶりを見てみよう。「塩野七生さんの処女作『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』(新潮文庫)・・・塩野さんが文学に真正面から取り組もうとした時の情熱というか気迫が感じられ、将来の塩野さんを予見させるみずみずしさと、良い意味の『毒』がたっぷり詰まっている素晴らしい小説です。チェーザレ・ボルジアはルネッサンス期の軍人・政治家で、イタリアという国家を構想した偉大な人物です。『妹と関係を持った』とか、『毒薬を使った』とか、一般には大変評判が悪い人物ですが、そのチェーザレ・ボルジアをこれほど豊かに、魅力的に見せてくれる小説はほかにはないのではないでしょうか」。この本は、私の好きな本ベスト5に入る傑作だ。
もう一冊だけ挙げておこう。「『幸福論』(岩波文庫)といえばやはりアランです。この本は、ぱらぱらめくると、短い文章がたくさんちりばめられています。一つひとつはとても読みやすいのでぜひ手元に置いて読んでみてください。1日1格言のような感じで取り組めます。今、自分が不機嫌なのも、悪いことがあって落ち込んでいるのも、結局は血の巡りが悪いだけだったり、食べたモノや量だったり、寒過ぎたり暑過ぎたり、ずっと立ちっぱなしで疲れているだけだったり、たまたまヒマなだけだったりと、ちょっとした、すぐにも改善できることの積み重ねに影響されていることが実は多いのです。幸福なんてそんなもの、と小さなことをくよくよ考えず、適度に忙しくすべきことをして、そんなサイクルなのかもしれないと達観して、努めて上機嫌になろうとするだけでも、意外に気分は変えられます」。
速読は有害無益
著者が、「大嫌いな言葉は『速読』です。本に書いてある内容をすぐに知りたければ、ウィキペディアを引けばいいのです。その方がはるかに早い。第一、人と話をしていて、速読されて喜ぶ人がいるでしょうか。速読は、世界遺産の前で記念写真を撮っては15分で次に向かう弾丸ツアーのようなものです。行ったことがあるという記憶は写真を見れば蘇るでしょうが、そこで何を観たかは少しも頭に残ってはいないでしょう。速読ほど有害無益なものはない、と考えています」と語っている。全く、同感である。