榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

史上最強の柔道家・木村政彦は、なぜ、格下の力道山に負けたのか・・・【続・リーダーのための読書論(12)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2012年2月16日号】 続・リーダーのための読書論(12)

世紀の決戦

1954(昭和29)年12月22日、テレビ視聴率もラジオ視聴率もほぼ100%、日本の全国民注視の中、世紀の一戦が行われた。片や、戦前・戦後を通じて無敗を誇り、双葉山と並ぶ国民的大スターであった不世出の柔道家・木村政彦(37歳)、片や、プロレスで人気上昇中の元関脇・力道山(30歳)。

このプロレス選手権試合は両者の間で引き分けにする約束になっていたのに、力道山の騙し討ちによって凄惨な流血試合となり、不敗の柔道王は全国民の前で血を吐いてKOされたのである。マットに直径50cmの血溜まりができるほどの惨劇であった。

木村政彦が負けた理由

年齢的に最盛期を過ぎていたとはいえ、木村の実力は力道山を大きく凌ぐと見られていたのに、なぜ、このような結果になったのか。著者が執念を燃やし18年かけてこの謎に挑み、遂に真実に辿り着いた労作が、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也著、新潮社)である。

それまで、15年間不敗、13年連続日本一の日本柔道史上、最強の男は、この敗戦によって名声のみならず全てを失い、零落を余儀なくされる。

この本の読み方

この本は、3通りの読み方が可能だ。第1に、負けるはずのない木村が力道山になぜ負けたのかという謎解きを楽しむ読み方。

第2に、柔道、プロレス、総合格闘技の興亡史と、そのスターたちの複雑にして微妙な人間関係を知る喜び。1951年に、総合格闘技ファンにはお馴染のグレイシー一族の総帥、エリオ・グレイシーに圧勝した木村が、グレイシー一族から今なお敬愛されていること、木村の実力も力道山の実力も身近で熟知していた、『空手バカ一代』の大山倍達が、力道山の謀略に激怒し、「全盛時代の木村先輩には誰も敵わない。ヘーシンクも3分も持たないと断言できる」と語っていたことなど、興味興味深いエピソードが鏤められている。

第3に、格闘技に限らず、ビジネスでも、人生を左右するような大勝負、大舞台に臨むときの教訓を学ぶことができる。●どんなに格下の相手であろうと、決して油断、慢心することなく、精神的、肉体的、技術的に最高の状態を保つ努力を怠るな、●万一、相手が卑怯な手を使ってきたときを想定して、その対応策をしっかりと練っておけ、●味方や支援者、協力者と緊密に連携し、万全を期せ。