難病と明るく向かい合う夫婦の記録・・・【続・リーダーのための読書論(42)】
患者志向
三共、イーピーメディカル、ファーマネットワーク時代を通じて、機会を捉えては、傘下のMRに、「ドクターの後ろに患者がいることを忘れるな! 病気で悩んでいる患者のことを念頭に置いてMR活動をせよ!」と言い続けてきた。
テレビの人気者
どんな病気も、本人と家族にとっては大変なことであるが、これが治療法の確立されていない難病となると、生死に直結する試錬に直面することになる。
『明るい はみ出し――ゆかい教授とはみ出し女房』(篠沢秀夫著、静山社)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹った篠沢秀夫と、夫を明るく支える妻・礼子の半生と闘病の記録である。フランス文学者で学習院大教授であった篠沢は、かつてテレビ番組「クイズダービー」の解答者として、不正解を連発してもにこにこしていることで人気を博したことがある。
難病と向かい合う
その篠沢が、口がもつれる、声門の開閉が悪い、横隔膜の筋肉が落ちている、肺活量が少ないといった自覚症状・検査結果を経て、ALSと診断される。「筋肉を動かす神経が麻痺してゆく病気。原因も治療法も不確定だから難病指定。多くは手や足の痺れに出るが、私の場合は喉、呼吸機能に問題があると言う」。
その後、「手術で胃に胃ろう、喉に人工呼吸器をつけ、喉の中で気管と食道を分離した」。「以来、喉に人工呼吸器をつけた生活となる。声は出せず、口は利けない。ゼスチャーで理解してもらえないことは、筆談とする」。
「この病気になったことを悔やんでいたら、心は沈む。『いまある姿を楽しむ古代の心』で前進を続けよう。覚悟している。そういう私を礼子は明るく支えてくれる」。「普通でいられることを喜ぶ心を持つべきである。いまある姿を喜ぶ古代の心。人と比べたり、欲に焦ることなどとは離れよう」。この篠沢の精神力の強靭さ、見事さには頭が下がる。
「喉に人工呼吸器をつけていても、パソコンで文を書いているときは病を得る前と心は同じ。礼子との暮らしの思い出(=本書)を書きまくるのは楽しい。夢の中にいるようだ。おお、そうだ。お仲間の女性たちのお名前をつけた木々を場所の順に思い浮かべる『木々カウント』をしているときも、電動自転車に乗っているつもりなのだから、夢の中と同じだ」。本当に、いい夫婦だなあ。
篠沢は、献身的に支えてくれる愛妻だけでなく、周囲の人たちへの感謝も忘れない。「こうして、ドクター、ナースさん、ヘルパーさんに守られて、静かに、着実に勝利を続けよう。病の進みを恐れるのが暮らしではない」。頑張れ、篠沢夫妻!