榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

中国崩壊、北朝鮮崩壊、韓国経済破綻が迫っているという大胆な予測・・・【リーダーのための読書論(50)】

【amazon 『中国崩壊前夜』 カスタマーレビュー 2014年12月30日】 リーダーのための読書論(50)

中国崩壊前夜――北朝鮮は韓国に統合される』(長谷川慶太郎著、東洋経済新報社)を読んで先ず感じたのは、長谷川慶太郎、未だ健在なりということである。中国、北朝鮮、韓国の近未来について、これほど大胆かつ明快に予測した書はなく、しかも説得力があるからだ。

中国の近未来については、こう予測されている。「中国共産党が一党独裁の正当性を主張する唯一の根拠が、継続的な経済の成長である。であれば、この(経済失速による)混乱の流れが加速し、激化していけば、やがて中国共産党一党支配の根源をも揺さぶることになり、体制の崩壊へと至ることになる。この大激動はいつから発現するのか。あっても数年以上先と見過ごしている向きが多いかもしれないが、そう遠い先ではない。中国の崩壊は、もはや目前に迫っているのである」。

「中国は今、バブル経済が崩壊し、体制崩壊の前夜にあると言ってよい。史上最大規模とも言われるバブル経済の崩壊のトリガー(引き金)になりかねない『シャドーバンキング(影の銀行)』に対する不安が、急速に高まっているのだ」。

「(中国の)現実の党と軍との関係は中国独特の構図を示している。党の腐敗・堕落、民心の不満の昂進に対して軍部からの批判は高まり、一方、軍自体も独自の利権を保持し拡張しようとする強烈な意思を有している。こうした中、『改革開放路線』へと転換して以降、経済重視・国際協調路線を望む共産党政府と、軍事重視・膨張路線を望む人民解放軍との間で、熾烈な抗争がくり広げられてきたのである」。「わが国との関係においても、人民解放軍が党の意向を無視して暴走に及ぶ事案は、これまでいくつも見られてきた。・・・東シナ海上空に突如、『防空識別圏』を設定するという暴挙も、中国空軍が暴走し、北京政府がやむなく追認するというかたちのものだ。・・・解放軍としては、日本と中国首脳が和平への動きを取ることだけは断固反対である。日本の脅威を煽ることが、自らの存在価値を大きくしてくれる。予算も獲得でき、組織も大きくできる。幹部にとっては利権も増える。だからこそ、日中はいつまでも緊張・対立が続いて欲しいのである」。政府と軍の抗争について、ここまではっきりと指摘した日本の大新聞の記事は、残念ながら見たことがない。

単一共和国としての中華人民共和国が解体崩壊した場合は、「具体的には、著者は中国全土が現在ある7つの大軍区(瀋陽軍区、北京軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、成都軍区、蘭州軍区)に従って、それぞれが独立国家になる、すなわち中国は分裂国家となるという判断で事態を見るべきであると考えている」。

「中国の治安にゆるみが生じるとすれば、それに応じて、これまで抑圧されていた少数民族が決起することになろう。異民族の蜂起は、それまで散発的であったウイグル、チベットの暴動もさらに激化させることになろう。・・・あるべき姿として、新疆ウイグルの独立、チベットの独立、内モンゴルの外モンゴル(モンゴル国)への統一へと至るであろう。台湾の独立も、当然のこととして改めて表明されるであろう」。どだい、少数民族を力で抑え込み続けることに無理があるのだ。

「共産党内部での路線闘争が激化している一方で、党の幹部たちは、その地位が高ければ高い人ほど、中国共産党の一党独裁体制が未来永劫、継続するなどということを信じていない。中国共産党の将来はそう長くないと考えている。したがって、党の幹部たちほど、今のうちに蓄えた資産の一部を海外に移転しなければならないと考え、事実、法の制約をくぐって資産逃避をくり返し行っている」。これは、まさに、末期的症状ではないか。

「習近平は、いまや一般市民の、党幹部や富裕層らに対する不平・不満が暴発寸前であることをよく知っている。であるからこそ、一般市民の不平・不満を抑えることを最優先した政策を行わなければならないのであり、事実、そのような政策を行っている。宴会退治がその象徴と言えるが、もうひとつ、国際的な問題となっている『シャドーバンキング問題』についても、市民の目を意識して大鉈を振るわなければならなくなっているのだ」。このところ習近平が次々と打ち出している想定外の政策は、危機感に追い立てられてのものだったのだ。一方で、党内の権力闘争という面があるのも確かだが。

北朝鮮の運命は、いかなるものか。「張成沢の粛清も、日本で報じられているような『北朝鮮は中国とのパイプを徹底的にたたき潰した』というような意味合いのものではなく、(人民解放軍で最大・最強の戦力を誇る)瀋陽軍区との連携を切って新たに北京政府との関係を構築したということである。これまでは瀋陽軍区が北朝鮮を傀儡として自らの手先として使っていた。中国国内では勝手に行うことができないミサイルや核開発を、北朝鮮を使ってやらせていたのである。・・・著者が想定していることは、習近平は北朝鮮を見捨てる。・・・なぜなら、これまで北朝鮮を安全保障上の緩衝地帯として必要としてきたのは、瀋陽軍区であって中央の北京政府ではないからだ」。北朝鮮は瀋陽軍区の傀儡政権であったという捉え方には、正直言って、驚いた。

「北朝鮮自身も自国の行く末に対しては、かなりの危機感を持っている。したがって、韓国に対して態度を軟化させている。というよりは、すり寄ってきている。・・・北朝鮮にとって中国に捨てられるというのは、食料支援が止まるということも含まれるが、もっとも影響が大きいのが原油である。現在、中朝国境である鴨緑江を越えて年間50万トンの原油が、中国の大慶から北朝鮮に送られている。・・・それだけが北朝鮮唯一の原油の入手経路なのである」。

「中国に見捨てられた場合、・・・金正恩はその地位を追われ、国外に追放されることになる。おそらくはスイスへ亡命することになるだろう。スイスへの亡命には根拠がある。スイスには、祖父の金日成がつくった金聖銀行があるからである。この銀行はいわばプライベートバンクで、もとはウィーンでつくられたものだが、5年前にスイスのバーゼルに移されている。北朝鮮は、その銀行を通じて海外への送金を行っている。ミサイル等武器の購入代金もスイスで決済しているのだ」。

韓国はどうなるのか。「現在、韓国経済が減速を余儀なくされている最大の理由は、韓国経済の柱となっているサムスンの先行きに不安が生じていることにある」。「現在の韓国経済は、数年前までの勢いがまったく感じられなくなっている。韓国経済を支えているのは、何と言っても海外への輸出である。韓国のGDPに占める輸出の割合を示す輸出依存度は50%を超えている。これは日本の約11%と比べると、きわめて大きな数字である。・・・仮に、中国が北朝鮮を放棄するような事態になれば、韓国経済はそれこそ壊滅的な打撃を被ることになる。中国が北朝鮮を放棄すれば、現在の金正恩独裁体制は維持できずに崩壊する。そうなれば、困窮した北朝鮮国民の多くが、38度線を越えて韓国へとなだれ込んでくることになる」。

著者だからこそ入手できた情報に基づく大胆な予測が鏤められた本書は、日本の現在と今後を考える上で貴重な一冊と言える。