視野狭窄に陥らないための、佐藤優の創価学会・公明党論・・・【リーダーのための読書論(56)】
私は創価学会の信者でも、公明党の支持者でもないが、佐藤優という論客が創価学会・公明党をどう捉えているのかが気になったので、『創価学会と平和主義』(佐藤優著、朝日新書)を読んでみた。
本書の結論は、著者が明言しているとおり、「公明党の平和主義は本物である。それは創価学会の平和主義が本物だからだ」である。
著者は、安倍晋三の胸の内をこう見ている。「集団的自衛権行使容認へ向けて、安倍首相の原動力となったのは、トラウマによるものだと私は考えている。それは、安倍首相の祖父である岸信介首相(当時)に日米安保条約改定における挫折を身近に見たという『経験』だ。左派・市民派の批判も、リベラルな保守の批判も、論理的な言説は、そんな安倍首相にはすべて届かなかった」。
これに果敢に立ち向かったのが公明党だ、というのが著者の見解である。「集団的自衛権行使容認で、自民党に押し切られてしまっては、国家主義がまた一歩せり出してくる。自分たちの支持母体の平和主義を実質的に守るためには、名を捨ててでも実を取る――『生存』の必要から生じた、自民党との協議だった。安倍首相のトラウマと、公明党のレゾンデートルのぶつかり合い、今風に言えば、『ガチの勝負』だったと見ることが妥当だ」。すなわち、結果的に、公明党だけが集団自衛権の行使に「縛り」をかけることができたというのだ。
10cmの定規で譬えた現在日本の政治状況が理解し易い。「5センチの目盛りが、政治的に中道だとしよう。そこに、公明党を除く、日本の主な政党を並べてみよう。最も右、10センチの目盛りのところに小さな点でいるのが、日本維新の会(2014年9月21日から維新の党)や次世代の党。その少し左の大きな塊が自民党。自民のすぐ横から4センチくらいのところまで、かすかにかかっているのが民主党。最も左、ゼロの目盛りが共産党。その少し右寄りの小さな点が社民党だ。この定規を俯瞰すると、日本の政党は、5センチの目盛りよりも右に集中している様子が見えるだろう。一方、国民の政治意識は世論調査などから推測すると、極右、極左を除いたところに均等に分布しているのだ。つまり、政治意識が中道左派にある国民の利益を代表する政党が存在しないことになる」。このガラ空きゾーンに位置する公明党は、今や躍進の好機だと、著者は言う。そして、公明党がこの好機を生かすための方策も示されている。
著者は、「創価学会に対する好き嫌いといった感情をひとまず脇に置いて、現実に存在する創価学会を等身大で見て欲しい」、「公明党に対しても、すでに読者が固定観念を持って見ているとすれば、いったん、それを外し、異なる視座から見てみることが必要なのではないだろうか」と述べている。「往々にして私たちは現在進行中の事態、とりわけ深刻な事態に対しては視野狭窄に陥りがちになる。そんなときこそ、『真実はひとつではない』『物語は複数ある』ということを思い出すようにしたい」。この視野狭窄に陥るなという呼びかけは、傾聴に値する。
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