脳を活性化し、MRが輝く秘訣・・・【MRのための読書論(39)】
脳科学者の仕事術
脳科学者・茂木健一郎は、自分はマルティプルな人間ではなく、ダイナミック・レンジが広い人間だと言う。ダイナミック・レンジが広いとは、「すごく専門的で高度なものからポピュラーなものまで」とか、「小さなものから大きなものまで」というように、さまざまな幅があることだと説明している。
茂木は矢継ぎ早に本を書いており、いずれも面白いが、MRの観点から読むと、『脳を活かす仕事術』(茂木健一郎著、PHP研究所)が一番役に立つ。最新の脳科学に基づき理解したことを、MR活動で実践するためのヒントが詰まっているからである。
「感覚系学習の回路」と「運動系学習の回路」
脳の「感覚系学習の回路」とは、見る・聞く・感じるなどの五感を通した情報の入力(理解)を司る領域で、一方の「運動系学習の回路」は、実際に手足や口などを動かして情報を出力(実践)することを司る領域だという。ところが、この2つが脳内で直接繋がっていないため、両者間のコミュニケーションをとるための、両者のバランスをとるための鍛錬が必要だというのだ。
脳の出力を高めるためには、脳に入力された役立ちそうな情報、感動した言葉を、得意先や仲間などに実際に話して出力することが大切である。その結果、その情報や言葉が自分の血となり肉となって整理されるのだ。この「脳の入力と出力のサイクルを回す」ことこそ、著者が体得した仕事の極意である。感覚系と運動系のバランスは、このようにして鍛えられていく。
「こういう企画をやってみたら面白いかもしれない」とアイディアが湧いてきたら、いきなり企画書などの形で文章にしてみる。「注力品目の採用を実現するために、処方を増やすために、こういう説明の仕方をしてみたらどうだろう」という場合は、それを声に出して誰かに話してみる。そして、企画書の出来や相手の反応を見ながら、少しずつ修正を繰り返して完成に近づけていく。少しずつ修正を繰り返していくのは一見、遠回りな方法に見えるが、運動系の回路を鍛えるにはこれが一番効果的なのだ。
このサイクルを完成させるには、自分の仕事ぶりを厳しくチェックする必要がある。没にされた企画書や、上司に提出した営業報告書、壁に貼られた営業成績のグラフが手元にあるなら、もう一度、読み直してみよう。営業成績であれば、「なぜ今月はよかったのか(あるいは、悪かったのか)」、「改善するとしたらどこか」を考えてみる。説明会・面談時のプレゼンテーションの仕方やマナーをチェックしてみる。これらをビデオやICレコーダーに録画・録音して、後で見直し、聞き直してみる。恥ずかしかろうと、あたかも他人の作品を見るかのように客観的に観察し、よい点と悪い点を探すことが大切なのだ。仕事ができるMRは、自分の中に「高性能の鏡」を持ち、その鏡を通して仕事のクウォリティをモニタリング(監視)し続けている。著者は、プロフェッショナルの仕事力を身につけるには、この習慣が絶対に必要だ、と強調している。
さらに、同じ職場の仕事ができる先輩、上司や、競合他社のライヴァルMRの仕事ぶりと自分のそれを比べてみる。憧れの人の作品と自分のものを徹底的に比較してみる。そして、そのギャップを埋めるべく、諦めずに努力することが大事なのだ。
輝くための5つの行動
著者は、成長して、輝きを放つための5つの行動――①クリエイティヴィティ(創造性)を持て、②セレンディピティ(偶然の幸福に出会う力)を持て、③オプティミスト(楽天家)であれ、④ダイナミック・レンジ(情報の受信範囲)を広くせよ、⑤イノヴェーション(改革・革新)を忘れるな――を挙げている。創造性は「経験×意欲+準備」で生まれる。出会いがアイディアを具体化する。脳は「楽観主義」でちょうどいい。ダイナミック・レンジが人生の幅を広げる。そして、「情熱」を燃やし、小さなイノヴェーションを積み重ねていこうと呼びかけている。重要なことは、これらのポテンシャル(潜在能力)を発揮する機会を作ることである。
戻る | 「MRのための読書論」一覧 | トップページ