榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アメリカのビジネス・エリートたちの栄光と孤独・・・【山椒読書論(79)】

【amazon 『アメリカのビジネス・エリート』 カスタマーレビュー 2012年10月10日】 山椒読書論(79)

『世界で通用するリーダーシップ』の著者が、自分が米国でMBA取得を目指そうと決意したのは、『アメリカのビジネス・エリート――競争社会の栄光と孤独』(山田正喜子著、日経新書。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)に衝撃を受けたからだと述べているので、この書が気になり、手にしたわけである。

1976年発行のため、さすがに内容が古さを感じさせるのはやむを得ないが、今なお通用する記述が目に付く。

例えば、「洗練された生活」について、「青年重役はたんに生活を向上させるために給与を使うより、貯蓄を増やすことに熱心である。『財政的な独立あるいは自由』を獲得したいためという理由が多い。なぜ財政的な自由が欲しいのかと言えば、自分の大切な希望を買いたいからだという。この人達にとって、ビジネスは最終キャリアではない。自分の希望をかなえる必要な金を、ビジネスが提供してくれるから一生懸命働くのである。評論家やライター、教育者、あるいは政府関係の仕事といったものが彼らの最終キャリアである。これらの仕事はどれも重役という仕事のように収入は多くないので、今のうちに家族のために貯えをしておくのである」、「若い世代は物質的な豊かさだけでなく、もっと洗練されたそして情緒的に豊かな生活を求め出した」と述べている。

「素晴らしい余暇」については、「多くの重役たちが、想像以上に多くの時間を仕事に費やしているので、緊張解消と休息を与えてくれる余暇は非常に貴重な時間といえる。ことに家族と過ごす余暇は、家庭の平和とコミュニケーションのためにも重要である」と強調している。

「ハーバードとシカゴのビジネス・スクールは、どちらが優秀か」という設問は、著者がシカゴ大学の助(現・准)教授を務めた経験を持っているだけに興味深い。「なぜシカゴとハーバードの教育概念と方法が、一流ビジネス新聞の第一面にとりあげられるのか。それは、両校の教育方法があまりにも両極端であり、またどちらも最近優秀な人材を多数送りだしているからである。つまりハーバード側が徹底して事例研究メソッドを用いているのに対して、シカゴ側が理論的なアプローチによる教育方法を採用している」というのが、著者の見解だ。

「増える離婚」についての、「最近、中年のマネジャー層、とくに40歳前後の管理者の離婚が多くなってきているといわれる。41歳前後に離婚が増えている現象と、中年管理者にとってこの時期が人生の岐路であるということに相関関係があるように思える」という指摘には、考えさせられてしまう。

著者は一方的にアメリカの肩を持っているわけではない。「アメリカ的な生活のどこが退屈なのかを、具体例をあげて説明してみよう。郊外にあるエリートの家は、プール付きの広い庭をもった素敵な家が多い。たいてい大きな樹々にかこまれ、リスや小鳥、自然植物の豊かな別荘地のようである。しかし、こうした美しい風物に囲まれた家も、少し長く滞在しているとあまりにも退屈で孤独な感じがする」ので、「美しく豊かな生活からの逃避」を図りたくなると、自分の経験を語っている。

著者は、「競争原理、個人主義。標準化」の3つが、アメリカ・ビジネス社会を牛耳るイデオロギーだと見做している。しかし、敗者復活戦システムが存在していることにも目を向けている。そして、読者に、あなたはアメリカと日本のどちらのビジネス・スタイルを選択したいのかと問いかけている。

「競争に勝ち残るために重要なことは、他の人達とは多少とも異なったユニークさや能力が必要である。したがって、競争社会では何でもそつのない標準的な優等生よりも、一つでもよいからすぐれた個性と才能のある人間の方が尊重される」というアドヴァイスは、米国だけでなく、日本でも十分有効だと思う。