植物は、本当に知性を持ち、コミュニケーションを取っているのか・・・【情熱の本箱(138)】
『植物は<知性>をもっている――20の感覚で思考する生命システム』(ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ著、久保耕司訳、NHK出版)によって、植物に対して抱いていた思い込み、先入観が粉々に打ち砕かれた。本書では、「知性」は「問題を解決する能力」と定義されている。この意味で、植物には知性があり、ヒトを含む動物とは異なる構造、機能、体系の知性を有していることが、科学的、実証的に証明されているので、強い説得力がある。
「じつはすでに数十年まえに、植物は感覚をそなえていること、複雑な社会関係を作り上げていること、植物どうしや動物とのあいだでコミュニケーションをとれることが、さまざまな反証を乗り越え、科学研究によって明らかにされている」。「植物は予測し、選択し、学習し、記憶する能力をもった生物だということが、この数十年に蓄積された実験結果のおかげで、ようやく認められはじめている」。
動物が5つの感覚を持っているように、植物も物を見て、匂いを嗅ぎ、味を区別し、触られたことを認識し、音を聞くことができる。その上、動物が持たない多数の感覚まで持っている。また、一つの植物の個体内の各部でコミュニケーションを取ることができ、別の個体とも連絡し合っている。動物を上手く操って、自分の利益になるように行動させることもできる。著者は、こうした植物の優れた活動を知性を備えている証拠と見做し、これまで植物に与えられてきた不当に低い評価を撤回せよと迫ってくる。著者が挙げる数々の事例によって、植物にも動物と同じように、いや、動物以上の優れた知性があることを、私たちは思い知らされるのだ。
「たとえば、植物は、湿度計のようなものをそなえていて、地面の湿りぐあいを正確に測定でき、かなり遠くにある水源も感知できる。植物がなんのためにこの特別な能力をもっているのかは容易に想像がつくだろう。自由に動ける人間にとっては、あまり必要のない能力だ。植物はほかにも興味深い感覚をもっている。たとえば、重力を感知する能力や、磁場(これは成長に影響を与える)を感知する能力。空気中や地中にふくまれている化学物質を感知し、測定する能力もある」。
植物の内部コミュニケーションは、どう行われているのか。「信号を伝える3つのシステム(電気、化学物質、水)は、一つの植物内部で互いに補いあって機能している。これらのシステムが協力しあうことにより、短い距離であれ長い距離であれ、多様なタイプの情報が伝えられ、それによって植物の健康バランスが保たれ、命が支えられる」。
植物は問題をどのように解決しているのか。「あらゆる植物は、大量の環境変数(光、湿度、化学物質の濃度、ほかの植物や動物の存在、磁場、重力など)を記録し、そのデータをもとにして、養分の探索、競争、防御行動、ほかの植物や動物との関係など、さまざまな活動にまつわる決定をたえずくださなければならない。植物のこうした能力を知性といわずしてなんといえばいいのだろう?」。
脳がないと、知性を持つことはできないのだろうか。「進化を通じて、植物は個々の器官に機能を集中させずに、体全体に機能を分散させたモジュール構造の体を作り上げてきた。これは、体の各部分を失っても、個体の生存が危険にさらされることがないための根本的な選択だ。植物は、肺も、肝臓も、胃も、膵臓も、腎臓ももたない。それでも、それらの各器官が動物において果たしている機能すべてを、植物もきちんと果たすことができる。それなら、脳がないからといって、どうして植物に知性があってはいけないといえるのだろうか?」。植物は、まさに生命を持ったインターネットなのだ。
「植物はどこから見ても知的な生物だ。根には無数の司令センターがあり、たえず前線を形成しながら進んでいく。根系全体が一種の集合的な脳であり、根は成長を続けながら、栄養摂取と生存に必要な情報を獲得する分散知能として、植物の個体を導いていく。環境から情報を入手し、予想し、共有し、処理し、利用する能力をもった生物として、植物を研究することができるようになったのだ。このすばらしい生物がどのように情報を手に入れ、それを処理し、得られたデータをどのように利用して秩序立った行動を起こすのか、それが植物神経生物学のおもなテーマである」。私たちヒトと異なる方法で思考する植物の生命システムを理解しようとしているのだ。
植物が感覚を持ち、植物同士や動物との間でコミュニケーションを行い、眠り、記憶し、学習し、問題を解決していることを知り、読後、植物観が一変した。今や、植物に対する尊敬の念が私を満たしている。