半世紀に亘る、獣医師一家とキタキツネたちの友情の記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(426)】
女房が訪れたがっていた千葉・君津の濃溝(のうみぞ)の滝と、千葉・鴨川の棚田、大山千枚田は、期待を裏切らぬ素敵な景観でした。大山千枚田の辺りにはオオゴキブリが棲息しています。幼虫をカメラに収めることができました。よく見かけるクロゴキブリとは異なり、森林性のゴキブリです。因みに、本日の歩数は13,820でした。
閑話休題、『恋文――ぼくときつねの物語』(竹田津実著、アリス館)は、北海道のキタキツネたちとの半世紀に亘る交流を獣医師が綴った写真+エッセイ集です。写真と文章が独特なハーモニーを醸し出しています。
「油断のならない隣人、農村風景に一番にあう生き物、だれからもきらわれ、そのくせ愛されているらしいこの動物をとことんのぞいてみたいという好奇心」から、著者とキタキツネの友情関係がスタートします。
「家にお父さんがいる。家にお母さんがいる。そして子どもの声がする。こんな家庭を持つ哺乳類は、わが国には3種しかいない。キツネ、タヌキ、そしてヒト。ほかはみんな、母と子の母子家庭なのだ」。
大きな耕運機が畑を耕すのを、ちょこんと座って見上げている2匹の子ギツネの写真が目を引きます。
低いベッドで昼寝をしている著者の末娘と並んで、すやすやと床で寝込んでいる子ギツネたちのかわいらしさといったら。著者の家には、さまざまな理由で入院中の子ギツネが常時、数匹はいるのです。「(娘とキツネは)いやなことはいや、好きは好きと、はだかでつき合っていた。本気でけんかをし、キツネがいやがって咬むと「ナニサー」と娘はキツネの背中をガブッと咬んだ。私たちはハラハラしたが、争いはいつもそれ以上にはならなかった。キツネの好物を用意すると、まるで計ったように自分と子ギツネたちに等しくわけている」。
夕日で真っ赤に染まった広い畑を行く1匹のキツネの写真は幻想的です。
木々に囲まれた娘と、それを見上げるキツネのシルエットは、映画の一齣のようです。
写真とエッセイが相乗効果を発揮して、これほど素晴らしい世界を作り上げている例は滅多にありません。