榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

江戸の老舗の箱入り娘の艶麗で淫靡な夜・・・【情熱的読書人間のないしょ話(539)】

【amazon 『お春』 カスタマーレビュー 2016年9月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(539)

埼玉・日高の巾着田は、大群落のヒガンバナで赤一色に染められています。因みに、本日の歩数は10,176でした。

img_2359

img_2358

img_2360

img_2364

閑話休題、『お春』(橋本治著、中央公論新社)は、橋本治ならではの艶麗で淫靡な時代小説です。

「自分は、北国屋の一人娘だ。跡取り娘が店の手代を思って頬を染めていたら、笑いものになってしまう」。北国屋は江戸・浅草の老舗の乾物問屋です。

「そばに人がいなければ、縫いさしの仕着せの襟に顔を寄せて、若い男の肌の匂いに酔いたくなるような気もする」。「男と交わるということが、どんなことかを経験してみたかった」。「なにがあったのかと言えば、何事もない。お春は男を知って、北国屋の内からは番頭が一人消えた」。

「堀田主水正の屋敷へ連れて行かれたお春は。不安も不都合も感じず、ぼんやりと時を過ごしていた。鷹揚に見えていざとなれば詰めの甘い父の清兵衛と、美しいが淫蕩な母の血を引いたお春には、好いた男の涼やかな声と色めいた視線があれば、それ以外のものはどうでもよかった」。「主水正の冷やっとした指が、お春の脚を大きく開かせる。『この美しいお侍様が、あの卑しい番頭と同じようなことをなさるのだ』と思うと、それだけでお春の体は、恥ずかしい欲望で燃え上がってしまう」。

さまざまな経験を経て、17歳のお春は大店の三男坊・孫三郎と祝言を挙げます。「孫三郎は、すべてを知っているのだった。『お前(まい)さん!』。お春は初めて、自分の夫を心から『自分の夫』と思った」。読み始めて、いったいどうなることかとはらはらしどおしでしたが、最後のこの一行でほっとしました。