三国志についての縦横無尽な放談集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(696)】
推理小説の祖とされるエドガー・アラン・ポーは40歳で亡くなりましたが、その前年に撮られた写真です。
閑話休題、『三国志談義』(安野光雅・半藤一利著、文春文庫)では、一家言を持つ安野光雅と半藤一利が三国志について自由奔放に語り合っています。
私にとって、とりわけ興味深いのは、将の採点表と参謀の採点表です。「各人物のさまざまな資質について、<正史>も<演義>も、<独断>も<偏見>も(笑)加味しながら、それぞれ各項目10点の40点満点、二人では計80点満点で点数をつけておきました」。正史は陳寿の史書『三国志』を、演義は羅漢中の歴史小説『三国志演義』を指しています。
将の部の総合点は、得点の高い順に、曹操69点、関羽64点、趙雲59点、孫権58点、劉備57点、袁紹45点、張飛45点となっています。なお、評価項目は、知将度、勇将度、仁将度、政将度の4つです。
「●半藤=曹操は、『演義』で徹底的に悪者になってしまいました。あれは勢い、蜀を正統なものとするために、相対的に魏の曹操が悪玉にされちゃったんでしょう。●安野=『演義』は小説だから。小説は相場通りに書いても値打ちはないし、極端な善玉悪玉がいたほうがわかりやすい。●半藤=でも『正史』を読めば、曹操は立派な人なんです。『正史』に描かれた曹操論をひろってみれば、『官方材を授け、おのおのその器により、情を矯め算に任せて、旧悪を念わず』(人材の用い方にすぐれ、適材適所の登用により各人の能力を存分にふるわせた。感情を抑え計算をしっかりとし、その人物の過去にこだわらなかった)とか、『籌を運らし謀を演べ、宇内を鞭撻す』(戦略戦術は実に見事で、天下を大きく動かした)とか、絶讃また絶讃なんですね。・・・●安野=吉川幸次郎が(曹操の漢詩を)ずいぶんほめていますね。・・・●安野=曹操は孫子の兵法の解説を書いていて、おかげで『孫子』が残ったとも言われている。これは今でも通用しますしね。やっぱり大人物です。●半藤=好敵手である諸葛亮孔明もほめています。『智計は人に殊絶して、その用兵は孫呉(孫子と呉子)を髣髴す』と」。
歴史上の実在の人物としては、曹操が群を抜いていたことを安野も半藤も認めています。
参謀の部の総合点は、高い順に、諸葛孔明74点、荀彧69点、周瑜68点、陸遜68点、賈詡65点、魯粛64点、呂蒙61点、司馬仲達59点となっています。なお、評価項目は、戦略度、戦術度、品格度、弁舌度の4つです。
この参謀の採点表には、大いに不満があります。『演義』の影響で、諸葛孔明が過大に評価され過ぎている点と、司馬仲達が参謀として扱われている点――の2点です。司馬仲達が天下統一の礎を築いた歴史的事実から明らかなように、彼は「将」の器であり、曹操と並ぶ大人物と、私は考えているからです。
さまざまな角度から三国志を軽やかに論じた本書は、三国志ファンにとって楽しめる一冊です。