榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

諸葛孔明の死以降の三国志の世界も波瀾万丈だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(170)】

【amazon 『黄昏三国志』 カスタマーレビュー 2015年9月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(170)

「人生をシンプルに生きる方法、あなたの夢を実現する方法」の研修では、目をきらきらさせて頷く受講者たちに励まされました。その後の懇親会では、恋愛至上主義の話で盛り上がりました(笑)。

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閑話休題、『黄昏三国志――孔明以後の英雄たち』(守屋洋著、KADOKAWA)は、語られることの少ない諸葛亮(孔明)死後の三国志の世界が描かれています。

本書は、正史『三国志』(陳寿)、正史『晉書』(房玄齢ら)、『資治通鑑』(司馬光)、『通鑑紀事本末』(袁枢)に依拠し史実を重視していますので、『三国志演義』(羅漢中)のフィクション性の強い世界とは、かなり異なった趣を湛えています。

孔明死後の蜀は「滅亡への道」を辿り、曹操死後の魏は「簒奪への道」を歩みます。孫権死後の呉は「転落への道」を進み、魏の皇帝を追い出し、自ら建国した晉を待ち構えていたのは「自滅への道」でした。

登場人物たちの人物評は、かなり辛辣です。例えば、蜀の劉備の跡を継いだ劉禅は「すぐれた人物に政治を任せたときは名君であったが、宦官の言いなりになってからは暗君となった」といった具合です。

魏の司馬懿については、「司馬懿もまた曹操に見出された逸材の一人である。初め曹操とはウマが合わなかったようだが、まめまめしく仕えることによって、しだいに信頼を勝ちとり、曹操の得意とする権謀術数の手口をそっくり学びとっていった」、「司馬懿は陰々滅々としている。ものすごいやり手ではあるのだが、人に好かれるタイプではない。もし身近にこんな人物がいたら、敬して遠ざけたいところである。それはともかくとして、にこにこしながら相手をじっくりと観察し、そのうえで権変を操り出していくというこの評は、かなり的確に司馬懿という人物をとらえているのではないか」と論評されています。

孫権の治世の前半はよかったのですが、「疑り深い性格で、容赦なく人を殺し、その性癖は晩年になるほどひどくなった。そのあげく讒言を信じて部下を殺し、跡継ぎに対しても、廃したり死を命じたりするにいたった。子孫の代になって国力の衰退を招き、やがて国を滅ぼしてしまったのは、孫権にも責任がないとは言いきれない」というのです。

三国――蜀、魏とその跡を継いだ晉、呉――の栄枯盛衰は、何とも凄まじいものがあります。その経緯を理解しようとするとき、掲載されている「蜀の年譜」「魏の年譜」「呉の年譜」「晉の年譜」と「諸葛氏系譜」「曹氏系譜」「司馬氏系譜」「孫氏系譜」が役に立ちます。おかげで、「晉王朝を興したのは司馬炎であるが、その基礎をつくったのは、魏王朝の元老として重きをなした祖父の司馬懿である。さらに、司馬懿の二人の息子たち、長男の司馬師と次男の司馬昭は、二人合わせて15年間、魏王朝の実権者として辣腕を振るい、司馬氏の権力基盤を不動のものとした」といった文章もすんなり頭に入ってきます。

魏の第3代皇帝・曹芳の父母は不詳であるとか、孔明の一族が蜀だけでなく、呉でも魏でも活躍したことには驚かされました。「『三国志』の時代は諸葛氏の活躍が目立っている。蜀の諸葛亮、呉の諸葛瑾、諸葛恪、魏の諸葛誕など、いずれもそれぞれの国の宰相や将軍として重きをなした。瑾は亮にとっては7歳上の実兄で、恪はその息子、誕も同属の出だという」。

司馬氏の専横に抵抗した「竹林の七賢」の実態も、私にとっては興味深いものでした。

三国志の世界をより深く理解するには、必読の一冊と言えるでしょう。