榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『テルマエ・ロマエ』の作者の痛烈な日本人論・・・【情熱的読書人間のないしょ話(12)】

【恋する♥読書部 2014年5月12日号】 情熱的読書人間のないしょ話(12)

漫画『テルマエ・ロマエ』の作者が著した『男性論 ECCE HOMO』(ヤマザキマリ著、文春新書)は、痛烈な日本人論です。

高校を中退してイタリアに移り住んで以来、外国暮らしが長い自称「半分外国人」の著者は、現代の日本人は自分の物差しを持たず、他人の目を気にし過ぎるというのです。

著者が、男性として素晴らしいと評価するのは、古代ローマのハドリアヌス、プリニウス、ルネサンスのフェデリーコ2世、ラファエロ、現代のジョブズ、安部公房、水木しげる、花森安治などですが、「人文系と理数系、ふたつの要素がひとりの人間のなかで共存していること。即物的で現実的な側面を持ちながら、いかにして空想・イマジネーションの部分も背負っていけるか。この二面性が魅力となって表れているひとに惹かれます。そしてやはり、時代の趨勢や大多数の価値観から外れている自分自身を、ウジウジ悩まないどころか、武器にかえられるひとがいい。時代の変化を敏感に読み取る直感力と、空想を具現化できる技術を持っている。わたしはこれぞ『男子の魅力』と思うのです」。

男性論にとどまらず、女性論にも筆が及んでいきます。「成熟による美。いま日本で軽んじられて、ほとんどないことにされているのが、この美の価値観ではないでしょうか。若い子が、同じ年齢くらいの若いアイドル(ほとんどまだ子どもにしか見えないような)を好きになるのは自然の摂理としてもよくわかる。でもいい年をした中年男性たちも、若くて子どもじみた女の子に熱をあげているシーンを、最近はよく目撃します。そしてもっと問題なのが、そうしたおもに男性側から作り上げられたいびつな美の価値観を内面化して、それにあわせようと躍起になる女性が多いということ。年を取らないと表れてこない美しさ、つまり成熟の美という概念があるということは忘れてはいけないと思うのです。時間の経過を恐れすぎるのではなく、時間との調和がとれているひとこそ最強です」。すなわち、中身の成熟が、女性自身にとって最大の武器になるというのです。「それはまず何よりも他者の目に自分がどう映るか、という脆い意識ではなく、自分への強い信頼と愛情につながる。だから外見磨きなんてのは自分が納得いく程度に、ほどほどにやればいい」んだよ、それよりも成熟した「いい女」を目指せと発破をかけています。私の周辺にも、成熟した「いい女」が増えてきているというのが私の実感です。

そして、時間をかけて自分自身のオリジナルな「辞書」を作り上げることを勧めています。「様々な行動によって得た知識や経験に基づいた、想像力のよすがとなる辞書を作っておけば、それが思いがけない方向から自分を助け、新たな展開を生む軸を生み出してくれるはず」というのです。まさに、正論ですね。