榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

絵画と音楽が密接に絡み合う、驚くべきエピソード集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(706)】

【amazon 『音楽で楽しむ名画』 カスタマーレビュー 2017年3月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(706)

何本も見て回って、漸く、2輪咲いているソメイヨシノを見つけることができました。一方、コヒガンは多くの花を付けています。コブシ、ハクモクレンも頑張っています。花粉を生産する雄花をびっしりと付けたスギを目にした途端、花粉症の女房は逃げ出しました(笑)。因みに、本日の歩数は10,721でした。

閑話休題、『音楽で楽しむ名画――フェルメールからシャガールまで(カラー版)』(加藤浩子著、平凡社新書)には、絵画と音楽の密接な絡み合いというテーマの下、さまざまな驚くべきエピソードが収録されています。

「絵画と音楽。その境目は、しばしば曖昧です。多くの音楽家が絵画と戯れ、多くの画家が音楽と戯れました。両方をよくする芸術家もいれば、自分の領分を守りながら、専門外の絵画や音楽からインスピレーションを受けたアーティストもいました」。

どのエピソードも興味深いのですが、とりわけ目を惹きつけられたのは、19世紀、革命後のパリを彩った娼婦たちの存在です。彼らは絵画やオペラの中で、生き生きと、しかし刹那的な輝きを放っています。

「『ありのまま』を好んだ(エドゥアール・)マネは、しばしば娼婦を描きました。1877年に描かれた『ナナ』は、裕福な男性に囲われている女性が下着姿で化粧している様子を描写した作品で、画面のなかには娼婦を意味する『鶴』も見えます。ちなみに『ナナ』も、たんなる固有名詞にとどまらず、その手の女性をさしても使われる言葉でした。また『オペラ座の仮面舞踏会』(1873年)では、黒服にシルクハットの男性たちの間に、仮面をつけた娼婦の姿が見え隠れしています。オペラ座をはじめとする劇場は、当時のパリではかなりいかがわしい場所でした。観客の関心はしばしば舞台より客席に向けられ、アヴァンチュールの相手を探すこともしょっちゅうでした。エヴァ・ゴンザレスやメアリー・カサットらが描いた桟敷席の光景は、舞台そっちのけで相方や女客に気をとられている男性たちの姿をリアルにとらえています」。

「彼(エドガー・ドガ)の代表作である『エトワール』には、画面左奥でエトワール(踊りの花形)の姿を見つめる男性が描かれていますが、この男性は『エトワール』のパトロン、あるいはパトロン候補だとされます。当時のバレリーナはほとんどが貧困層の出身で、オペラ座の客である金持ちのブルジョワに囲われることは、女としての出世でした。もちろん男たちも、それを承知していました」。

「彼女(『椿姫』のヒロインのモデルとなったマリー・デュプレシ)のような高級娼婦もまた、バレリーナ同様貧しい階級の生まれでした。マリーはある新聞のインタビューで、なぜ高級娼婦になったのかときかれて、贅沢がしたかったからと素直に答えています。結婚が身分で決まった当時、結婚によって社会的な上昇が期待できなかった貧困層の娘たちにとって、贅沢な生活を満喫する手段といえば、金持ちのパトロンを持つ高級娼婦や愛人になるより他になかったのです。マネやドガたちは、そのような彼女たちの姿を通じて、社会の陰の部分をリアルに描いたのでした」。

「このようなリアリズムは、実はオペラ作品それ自体にも反映されています」。

貧困が生むこういう現象は、形を変えて、現在も生き長らえているのではないでしょうか。