自分の背中にびっしりと産みつけられた卵を育てるコオイムシのオス・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1160)】
たどたどしい飛び方をするツバメの若鳥を見かけました。紫色のアガパンサスはあちこちで見かけますが、白いアガパンサスには滅多に出会えません。ギボウシの葉はヴァラエティに富んでいます。因みに、本日の歩数は10,323でした。
閑話休題、『タガメとゲンゴロウの仲間たち』(市川憲平著、サンライズ出版)を読んで、背中がゾクゾクしてしまいました。
タガメの仲間たち、すなわち、コオイムシ科は、コオイムシ亜科、タガメ亜科、ホルバシニーナエ亜科に分かれますが、「コオイムシ亜科昆虫は、すべての種のオス親が背中に産みつけられた卵を保護します」。
「(オオコオイムシの)オスが木片の水面ギリギリの場所に止まり、中足を屈伸させて波を起こすと、複数のメスが集まってきました。競争に勝ったメスが交尾し、その後1卵だけオスの背中に卵を産みつけると、雌雄は離れました。再びオスが波を起こすと同じ事がおこりました。これらの行動が3時間以上続き、4匹のメスが1匹のオスに26個の卵を産みつけました。・・・頻繁な交尾はオスの都合で行われていることがわかります。昆虫の精子は交尾後メスの受精嚢に蓄えられ、産卵時に使われます。従って、受精嚢内には複数のオスの精子がつまっています。連続的に多数の卵を産みつけることを許せば、他のオスの精子で受精された卵をも背負うことになりかねません。しかし、1卵産卵するたびに交尾すれば、受精嚢の出口付近の受精に関与できる精子が自分自身のものである可能性は高まります。このために、オスは頻繁に交尾するのです」。
「オス親は水草の上に乗り、卵塊を水面上に突き出すような姿勢で一日の多くの時間を過ごします。卵に十分な酸素を与えているのでしょう。天気のよい日には上陸し、卵塊を太陽光にさらしていることもあります。卵を太陽光にさらす行動には、(卵に)カビが生えるのを防ぐ意味があるのかもしれません」。オスは、全ての卵が孵化するまで、このように卵を保護し続けるのです。
オスの行動は感動的ですが、背中にびっしりと産みつけられた卵を見ていると、自分の背中にも産みつけられているような気がして、むず痒くなってきます。
タガメの場合は、メスは、オスの背中ではなく、水面から出ている植物に産卵します。「メスが去った後もオスは卵の近くに留まり、卵に水を与えて育てます。タガメの卵もコオイムシの卵と同様に十分な酸素と水が必要なのです。タガメの場合は卵が空気中にあるため、オス親は水を与えなければならないのです。オス親は夜間に数回以上植物などをのぼり、卵塊におおいかぶさります。このとき、体表に付着した水や飲み込んできた水を卵に与えます。直射日光が射すような場所に卵塊がある時は、オス親は炎天下に数時間以上卵塊におおいかぶさり、命がけで卵の乾燥を防ぎます」。
オスの涙ぐましい努力には驚かされますが、もっと凄いことが記されています。「産卵準備のできたメスがオスを求めても、オスはまだ卵の保育中で、オスが不足するのです。成熟卵で腹部がふくれたメスは、日没後にオスを探して泳ぎ回ります。フリーなオスに出会えば、もちろんそのオスと交尾します。しかし、保育中のオスは、メスが近づいてくると、前足を振り上げて追い払おうとします。前足を使った争いがしばらく続きますが、オスの隙を見てメスが卵塊のついた植物などをのぼります。卵塊にたどり着いたメスは、前足を交互に動かして卵塊をこわし始めます。オスが慌ててのぼってきて破壊行動をやめさせようとしますが、オスの方が体が小さいためなかなか止めることはできません」。
なぜ、メスは卵塊を破壊するのでしょうか。「保育中の卵塊さえなくせば、そのオスは新たな繁殖相手になってくれるはずです。卵塊破壊にはもう一つ意味があります。卵をこわさずに別の卵塊の横に産み足した時、自分の卵が孵化した時には、周囲には先に孵化した幼虫がたくさんいます。多くの幼虫が共食いされることになるでしょう。タガメのメスは、自らの子どもを守るためにも他のメスが産んだ卵塊はこわした方がよいのです」。
これらは、動物は種の繁栄や保存のために行動するのではなく、自分自身の子や孫の数が最大になるように行動することを示す実例だというのです。