少々難点があろうと、好きな相手とは添い遂げろ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1163)】
河口湖の向こうに富士山が望めました。手前には紫色のラベンダーが広がっています。花の色が変化するトリトマ(シャグマユリ)が咲いています。ベゴニアの壁が目を惹きます。新鮮なモモを堪能しました。因みに、本日の歩数は15,063でした。
閑話休題、山本周五郎の短篇『おさん』(山本周五郎著、新潮文庫)は、男と女の愛について考えさせる作品です。
「これ本当のことなの、本当にこうなっていいの、とおさんが云った。それは二人が初めてそうなったときのことだ。そして、これが本当ならあした死んでも本望だわ、とも云った」と、始まります。
24歳の床の間大工の「おれ」参太と、仕事を差配してくれる大茂の帳場で中働きをしているおさんとは、ひょっとしたことから結ばれてしまいます。「おどろくほどしなやかで柔らかく、こっちの思うままに撓ううぶな軀の芯で、そんなに強く反応するものがある、ということがおれを夢中にしてしまったらしい」。
「あたしおかみさんにして貰おうなんて思わないのよ、とおさんは云った。夫婦になろうと云いだしたのはおれのほうだ、あとでわかったのだが、おさんには親許で約束した男があり、その年が明けると祝言をする筈になっていた。おれは知らなかったからおさんを説き伏せたうえ、親方の許しを得て世帯を持った」。
「おれを夢中にさせたおさんのからだは、いっしょになるとすぐに、この世のものとも思えないほど深く、そして激しくおれを酔わせた。誰でもこんなふうになるの、恥ずかしい、どうしてあんなになるのかしら、女っていやだわ、とおさんが云った」。
ところが、問題が生じます。「夫婦の情事は空腹を満たすものではない、そういうものとはまるで違うのだ。単に男と女のまじわりではなく、一生の哀楽をともにする夫婦のお互いをむすびつけあうことなのだ。そのむすびつきのうちにお互いを慥かめあうことなのだ。おれがそう気づいたとき、おれをあんなにのぼせあがらせたおさんの軀が、おさんをおれから引きはなすことに気がついた。おさん自身でも止めることのできない、あの激しい陶酔がはじまると、おさんはそこにいなくなってしまう。完全な譫妄状態で、生きているのはその感覚だけだ。・・・そうしてやがて、その譫妄状態の中で、おさんは男の名を呼ぶようになった」。
夫婦になって1年足らずの時、耐えられなくなったおれは、上方に仕事があるという口実をつくり、おさんを残して江戸を立ちました。
2年が経ち、おさんのことが気になったおれは、江戸に舞い戻り、おれに捨てられたおさんのその後の悲劇を知ることになります。
私には、少々難点があろうと、好きな相手とは添い遂げろ、と山本周五郎が言っているような気がしてなりません。