榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

今後、老人ホームに入ることになったとき、大いに参考になる物語・・・【山椒読書論(529)】

【amazon 『黄昏流星群(17)』 カスタマーレビュー 2020年1月21日】 山椒読書論(529)

コミックス『黄昏流星群(17)――星がりません勝つまでは』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「星がりません勝つまでは」には、今後、老人ホームに入ることになったとき、大いに参考になる内容が詰まっている。

片岡俊彦が「高齢者養護施設 ほのぼのホーム」に入居するところから、物語の幕が開く。「ここに入居される方の多くは、比較的、裕福ではないお年寄りです。ところが、あなたの人生をお聞きしたところによると、いわゆる『超エリート』です。そういう方がこういう施設に来られて、他のお年寄りの方と話が合いますか?」。「現在、この施設には男女合わせて52名のお年寄りが住んでいます。ここは70歳以上の入居という規則がありますので、下は70歳から上は94歳の方までが同じ屋根の下に住んでいます」。

この土地出身の俊彦は、入居者の中に、子供時代のマドンナ・富田静枝がいることに気づき、ときめきを覚える。ところが、俊彦をいじめた餓鬼大将、大嫌いな後藤完治が入所してきたことで、「我が楽園」は地獄に一変してしまう。

こんな片岡を慰め、励ましてくれたのは、地味で目立たない新之塚ていだった。「意中の人を後藤完治さんにとられている、それが余計に悔しいんですね。時を待ちましょう。そのうち、あなたはみんなから尊敬される存在になりますよ。昔よく言ったでしょう、『欲しがりません勝つまでは』ですよ」。

そして、このホームに突発的な大事件が起こり、ていの予言どおりになっていくのである。「マドンナの富田静枝の関心は一気に私に向かってきた・・・。しかし、私はこの時、富田静枝に対して恋愛感情を殆ど失っていた。富田静枝は、強い者に惹かれるタイプだ。常に、一番強い人間のところに近づいて、その男を手に入れる・・・わかりやすい性格だ。おそらく、彼女は、子供の頃から美人で頭がよくて、男を自分で選べる立場にあった。そのクセが今も残っているのだ。私は、そういうタイプよりあの人の方が好きだ」。あの人とは、ていを指している。

「何というのか、ていさんは何でも見通していて、とても頼りになる存在なんです。70年間生きてきて、こんな人に会ったのは初めてです」。

しかし、ていは突然、亡くなってしまう。「私は今でも、ていさんは天使だったと信じている」と結ばれている。