榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

上質な短篇小説を思わせる、印象的な作品・・・【山椒読書論(690)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月21日号】 山椒読書論(690)

コミックス『西岸良平名作集 ミステリアン』(西岸良平著、双葉社)に収められている「二人のキャンバス」には、ほろりとさせられた。

「やっぱり俺には出来ない・・・無名時代からずっと、おれをささえてくれた広美を捨てるなんて・・・やっぱり縁談は断わろう・・・そして広美と正式に結婚しよう。しかし思えば広美も不思議な女だ。学生の頃出会ってから、もう10年・・・生活も絵も自分自身もすべてが信じられないほど変ってしまったのに・・・広美はあの頃と少しも変っていないような気がする・・・一緒に年を取っているせいなのだろうか・・・」。

その夜――。「裕二さん、お別れの時が来たわ。あなたは一流の画家になったし、私は次の調査に移らなくちゃならないの。そのほうがあなたのためでもあるから・・・さようなら裕二さん・・・あなたの事とっても愛していたわ・・・」。

「人気画家佐伯裕二と大画廊令嬢の結婚がマスコミをにぎわしたのは翌年の秋だった・・・そして彼は着実に大画家への道を歩んで行った・・・」。

ところが、テレビから、「臨時ニュースです。洋画家の佐伯裕二氏が自殺しました」。

「佐伯裕二の死後、彼の絵の人気は下火になった。流行に乗っただけだった彼の絵は、しだいに飽きられ忘れられて行く運命だった。しかし、その中でただ一枚、人々に愛され続けた初期の作品があった」。その作品とは・・・。

上質な短篇小説を思わせる、印象的な作品である。