榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

新進気鋭の建築家には、学生時代に付き合っていた女を殺した過去があった・・・【山椒読書論(607)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月18日号】 山椒読書論(607)

コミックス『人間交差点(1)――ガラスの靴ははかない』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「砂上の設計」は、上質な推理小説のような香りを漂わせている。

橘健吾設計事務所の橘健吾は、有名建築家の美しい令嬢と結婚し、女児に恵まれた、今や人気急上昇中の新進気鋭である。

和歌山新報の「死後七年・・・和歌山県警は殺人事件として被害者の身元の割出しに全力をあげている」という記事に目を見張る。「7年前、おれはトルコ(=ソープランド)嬢の河合テル子と人目につかないように暮していた・・・おれがワセダの学生だった頃だ。昼間は自分の安下宿で勉強し、夜になるとテル子のアパートに行き、朝帰ってくるという生活だった。・・・おれは結構幸せだった。少なくとも今の妻との虚飾に充ちた生活に比べると・・・」。

「テル子の死体は、たしかあそこ(熊野の那智大滝)に埋めたはずだが・・・一体・・・どうして発見されたんだろう。しかし、7年も前のことだ・・・おれ達のことは誰も覚えちゃいないだろう・・・警察がいくら騒いだところで、まず間違いなくお宮入りだ」。

ところが、思いがけない結末が待ち構えている。