榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

かつて過激派右翼だった鈴木邦男の「天皇リベラリズム」とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1329)】

【amazon 『天皇陛下の味方です』 カスタマーレビュー 2018年12月10日】 情熱的読書人間のないしょ話(1329)

外側の花弁も内側の花弁も黄色い園芸種のソシンロウバイが芳香を漂わせています。外側の花弁が黄色で内側の花弁は茶色いロウバイもいい香りがします。メジロ、シジュウカラ、ムクドリをカメラに収めました。野鳥を追って藪の中に入ったら、ズボンがこんなになってしまいました、因みに、本日の歩数は10,094でした。

閑話休題、『天皇陛下の味方です――国体としての天皇リベラリズム』(鈴木邦男著、バジリコ)では、かつて過激派右翼だった鈴木邦男の、反省を踏まえた「天皇リベラリズム」論が展開されています。

著者が過激派右翼だった若い頃の「井上ひさし脅迫事件」には、思わず噴き出してしまいました。「井上ひさしは日本共産党のシンパとして知られ、護憲グループ『九条の会』の呼びかけ人でもあり、かつ天皇制の批判者でした。つまり、我々にとっては格好の『敵』だった。というわけで、仲間の一人がいつも通り(嫌がらせ電話をかけ)『この野郎! 馬鹿野郎!』といきなり怒鳴り始めたのですが、どうしたことか途中から口ごもり、最後は『うるせー』と言って電話を切っちゃいました。代わって次の奴が電話をかけると、やはり途中から黙り込み、あげくの果て『今ちょっと忙しいから。じゃ、また』と言って電話を切ります。・・・まったく、だらしない奴らだと思いながら、今度は自分自身で電話をかけると、井上本人が出ました。どうやら、逃げる気はないようです。そして『あっ、右翼の方ですか。毎日、運動ご苦労さんです』なんてとぼけたことを言います。こちらは初手からガックリと拍子抜けしてしまいますが、さらに続けてとんでもないことを言い出します。『私も天皇さんは好きですし、この国を愛しているつもりです。その証拠に、歴代の天皇さんの名前も全部言えますし、教育勅語も暗誦してます。右翼の人は当然、皆言えますよね。あっ、ちょうどよかった。今、言ってみますから、間違っていたら直してください。どっちからやりましょうか。歴代の天皇さんの名前から言いましょうか。えーと、神武、綏靖・・・』とやり始めるのです。私は、黙って電話を切りました。完敗でした」。

大正天皇について、私の知らなかったことが書かれています。皇太子時代の大正天皇の「関心は学校や工場、農村、漁村など市井の人々の生活全般に向けられ、時に直接声をかけられています。その眼差しは、とても温もりのあるものでした。・・・しかし、こうした皇太子の個性は、父である明治天皇や保守的な元老山縣有朋からは疎まれ、度々たしなめられていたそうです。・・・(天皇即位後の病状)公表によって一般の国民の中に様々な風説が流布されていきます。そして、国民は皇太子時代の大正天皇を忘却し、徐々に『精神薄弱の暗君』というイメージが定着していくことになります。・・・大正天皇の明るく人情味のある気質は、大正という近代日本が束の間自由を享受した時代に見合ったものでした。ある意味で、大正天皇は時代を先取りした天皇だったのかもしれません」。

今上天皇については、こう記されています。「(皇太子の教育係の)ヴァイニング夫人と小泉信三は、今上天皇に大きな影響を与えたと思われます。昭和天皇が『立憲君主』について生涯考え抜かれたように、今上天皇は日本国憲法下での『象徴天皇』のあるべき姿を追求されてきました。また、頑固ともいえるほどの徹底した平和主義は、ヴァイニング夫人の影響も大きかったと思われますが、何よりラディカルな平和主義を背骨とする日本国憲法の精神に従おうとされたからに他なりません。まさしく『憲法の子』として生きてこられた、今上天皇はそのような方だと私は思っています」。

「天皇は日本の誰よりも、皇室が存在し持続することの重要さを深く認識されています。もちろんそれは、自らの一族の繁栄といった卑俗なことではなく、皇室の歴史を客観視された上で、日本という国と日本国民にとってそれが必要なのだと自覚されているからです。だからこそ、自由のない非人間的環境の中で心身を削りながら日々祈り、行動されているのです。国民は退位問題に接して改めてどれだけ天皇に負荷をかけているかを知り、また天皇のビデオメッセージにより天皇の考えられていることを初めて知ったのではないでしょうか」。

「今上天皇の力の源泉は、ひたすら国民に寄り添おうとされる行動にあり、またそうした在り方に天皇は強い矜持を持たれています」。

「保守という名の反天皇主義」では、現在の反天皇主義者たちの正体が暴かれています。「現在の日本の政界および言論界には『保守主義者』がテンコ盛りです。殻らの口からは常に『愛国』と『尊皇』が吐き出され、そしてその同じ口から今上天皇夫妻と皇太子夫妻に対する陰湿な批判が垂れ流されている。倒錯という他ありません」。

「『反天皇』という時、共産主義者やアナーキストのような確信犯的反天皇主義は、主義主張に一貫性があり、わかりやすいといえばわかりやすい。私は天皇や天皇制に対する批判があってもいいと思っています。そうした批判を許すのが、天皇の本質だとも思っています。昔の私とはずいぶん変わったものです。しかし、大半の反天皇主義者とは尊皇を掲げた反天皇主義者であり、自らの野望、利権、矛盾した妄想のための道具として天皇を捉えている者たちです。『天皇を想うからこそ』といって反天皇的な行動をする。実にタチの悪い者たちです。ひょっとすると、自分では純粋な尊皇主義者だと思い込んでいた、かつての私もそうだったのかもしれません」。

著者は、今上天皇の対極に位置する現政権の政治姿勢に厳しい視線を注いでおり、「現在の状況こそ、戦後最大の危機だ」と警鐘を鳴らしています。

「私のような考えは、左翼からも右翼からも排除されるのかもしれませんが、今後もぶれることなく、『天皇リベラリズム』ともいうべき国体の可能性を追求していこうと思っています」。