榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

今や、国家に頼らず、自分たちで生き残る道を切り拓け・・・【続・リーダーのための読書論(89)】

【amazon 『[国家の衰退」からいかに脱するか』 カスタマーレビュー 2019年10月14日】 続・リーダーのための読書論(89)

告発と提言

国家の衰退」からいかに脱するか』(大前研一著、小学館)は、現在の日本ならびに世界の「国家の衰退」に対する告発と、子の状態からいかに脱するかの建設的な提言とで構成されている。

国家の衰退

「もし、いま田中角栄が政治を動かしていたら、安倍首相の無策を嘆き、平成・令和時代の『空の色を変える』ような政策を構想し、断行したに違いない。すなわち、発想を完全に逆転し、地方への交付金や補助金のバラ撒きをストップして、成熟期にふさわしい真の地方自治=道州制を目指したのではないだろうか。言い換えれば、中央集権から真の地方自治への組織運営体制の大転換である」。

「今、この国では政治の劣化が急速に進んでいる。小選挙区制の導入に伴ってますます小粒化する政治家と、その政治家に媚びへつらう官僚が引き起こす不祥事が後を絶たない。その一方で、人口減少社会に転じた日本は、経済成長率も低位安定を続けている。安倍首相が当初掲げた2%成長にはいっこうに届かず、多くの国民が『国家の衰退』をじわじわ感じているのではないかと思う。ただ、政治の劣化が進んでいるのは日本だけではない。世界でもまた『国家の衰退』が進んでいる。たとえば、アメリカでは『ミー・ファースト(自国第一主義)』のドナルド・トランプ大統領が政権に就いて以来、想像もつかないぐらい言論空間が破壊されている。トランプ政権を激しく追及していたCNNですら、その批判の矛先は鈍ってきており、次の大統領選挙がある2020年11月以降、誰が大統領になったとしても、もともと自由・人権・民主主義を世界中に振り撒いてきたかつてのアメリカには戻れないだろう。それは『ブレグジット(EU離脱)』を目指すイギリスや、同じアジアの中国・韓国とも共通する『劣化』『衰退』なのではないかと思う」。

生き残る道

著者の多岐に亘る具体的な提言は説得力があるが、注目すべきは、日本はイタリアとメガリージョン、メガシティに学べというアドヴァイスである。「公的債務が対GDP比で約130%に達してEUから予算の見直しを求められ、国内経済も惨憺たる状態にあるイタリアが、なぜヒントになるのか? 実は多くのイタリア国民は、国や政府の問題を考えるのは時間の無駄だと割り切って、そこに期待することを諦めている。国や中央政府がとうなろうが関係なく、自分の家族やコミュニティ、会社が世界とつながり、そこで自分たちの商品やサービスをどう売り込んでいくかを熱心に考えているのだ」。

「もう一つ、今の世界で繁栄しているモデルがある。それが、メガリージョン。メガシティだ。アメリカのシリコンバレーやサンフランシスコ・ベイエリア、中国の深圳などがその典型だが、これらの地域もまた、国家という単位に縛られることなく、自分たちの繁栄を築き上げてきた。・・・日本で言えば、その条件に近いのは北海道や九州だろう」。

「いま問われているのは、劣化・衰退していく国家と一緒に沈んでいくのか、それとも自分がいる地方や企業ごとに世界の繁栄とつながって生き残っていくのか、という選択である。生き残る道は2つ――小さくとも独自の技術とブランドで世界とつながるイタリアモデルか、1000万人を超える人口とハイテクや観光資源などの付加価値を有するメガリージョンか。いずれにしても、劣化が止まらない政府や役所に期待することなく、ボーダレス経済の中で生きる道を模索することが、これからの新しい『繁栄の方程式』なのである」。今や、国家に頼らず、自分たちで生き残る道を切り拓けという逆転の発想は、さすが大前研一である。