翻訳家の手になる、洋書の魅力全開本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1665)】
撮影したハチの種名が分からず落ち着かなかったが、観察会の仲間で昆虫に造詣の深いSさんからセグロアシナガバチと教わり、スッキリしました。ミカエリソウの花、トウガラシの変種のヤツブサ、マユミ、アルプスオトメという品種のリンゴの実、キノコをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,457でした。
閑話休題、『洋書天国へようこそ――深読みモダンクラシックス』(宮脇孝雄著、アルク)は、翻訳家に手になる、洋書の魅力全開本です。
「クリスティのデビュー作に名探偵ポアロは難民として登場――『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティ」は、こう結ばれています。「英国のミステリは、本当は大人の読み物である。クリスティなど、日本では小中学生のころに読んでそれっきりになっている人も多いが、三十、四十になってから再読してみると、いろいろ新たな発見があるものである」。同感です。
「古風なメロドラマに描かれた第二次大戦前夜の不穏な空気――『女ごころ』サマセット・モーム」は、かつての著名な受験参考書から話が始まります。「山崎貞の『新々英文解釈研究』という有名な受験参考書(通称ヤマテイ)があった。初版は大正元年、もちろん何度か改訂はされているが、昭和40年代後半でも普通に書店で買えたし、先生の薦めもあって、英語の入試が難しい大学を受験する生徒はよくこの参考書で勉強をしていた。とにかく、例文が多い。・・・記憶違いでなければ、私はW・サマセット・モームの原文をこの参考書で初めて読んだ。そして、たぶん、気に入ったのだと思う。モームという作家のまとまった作品を何か読んでみようと思いたって、地元の大学生が利用する本屋に出かけ、買ってきたのが、このUp at the Villaだった」。著者は、この二人の男から求婚されたヒロインのサスペンス満点の物語の一節を、『新々英文解釈研究』の例文に使ったほしかったというのです。私事ながら、私もこの参考書で勉強した口で、今でも書斎の本棚に収まっています。
モーム好きの私が、未読の『女ごころ』を無性に読みたくなってしまったのは当然と言えるでしょう。もちろん、原書でなく翻訳でですが。
「クリスマスを『再発明』したディケンズの人気小説――『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ」には、興味深いことが書かれています。「この作品を一言で評するなら、ディケンズがクリスマスをreinventした本、ということになるだろう。ディケンズがこれを書いた当時(1843年)、クリスマスは今ほど盛んには祝われていなかったという。・・・19世紀の前半、イギリスのクリスマスは主に宗教の行事で、国民的なお祭りになっていたわけではなかった。そこにディケンズが一石を投じ、12月25日から宗教の臭いを消して、家族が集まって食卓を囲む日、貧しい人や恵まれない人に慈善を施す日としてクリスマスを描いたのである。そんなわけで、毎年、クリスマスの時季になると、『クリスマス・キャロル』を読んでみようと思う人が増えるかもしれないので、老婆心ながら、(原書を)読破するコツのようなものを二つばかり書いてみたい」。
「ミステリ初心者のうちに読んでおきたい人気ミステリ――『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ」で取り上げられている『幻の女』は、出だしのフレーズがよく知られています。<The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour. =夜は若く、彼も若かった。だが、夜は楽しかったのに、彼は不機嫌だった>。私の一番好きなミステリ『幻の女』が登場したので、嬉しくなってしまいました。