古生物のしたたかな生き方に学ぼう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1828)】
今日は、千葉・柏の「こんぶくろ池自然博物公園」で、3つの出会いがありました。カワセミの雄、ハシビロガモの雄、そして、毎日、ここを散策しているというマスク姿の女性です。この女性から、数日前に撮影したニホンノウサギの動画を見せてもらえたので、ニホンノウサギをカメラに収めたいと熱望している私にとって、希望の灯がともりました。山地に生育し、平地では滅多に見られないズミが白い花を咲かせています。
閑話休題、『古生物のしたたかな生き方』(土屋健著、幻冬舎)は、単なる古生物学の入門書ではなく、古生物のしたたかな生き方と私たち人間の勝ち残り戦略を重ねて論じているところに特色があります。
例えば、「イヌの環境適応能力がすごすぎる・・・マネできる?」の章は、こんなふうです。「人類の友であるイヌ。このイヌの歴史を遡っていくと、約5500万年前に登場した『ミアキス類』という動物にたどり着く。ミアキス類は全長20センチメートルほどの『ミアキス』に代表される。その姿は、『イヌの祖先』というよりは、イタチのようだ。・・・ミアキス類の登場から1000万年と少しが経過した頃から、地球の気候は冷え込んでいく。寒冷化すると、乾燥化も進む。乾燥化が進めば森林は縮小していく。亜熱帯の森林は、もはや必ずしも楽園のような環境ではなくなった。一般に、こうした大規模な環境変化があると、多くの種が絶滅することになる。しかし、ミアキス類から生まれたグループは、森林の外に自分の世界を広げることに成功した。これがイヌ類である。初期のイヌ類を代表するのは、約3400万年前に登場し、その後1000万年以上にわたって命脈を保つことに成功した『レプトキオン』だ。頭胴長50センチメートルほどのレプトキオンは、祖先であるミアキス類とは異なり、足は『つま先歩き』だった。つまり、歩幅が広く、走り回ることに向いていた。・・・こうして生まれたイヌ類は、草原の獲物を長距離追いかけて、獲物が疲れ果てたところを仕留めるという狩りを行うことになる。・・・環境が激変しても、子孫を残す柔軟性が彼らにはあったのだ」。
「イヌには、他の動物にはない特徴がある。それは、遺伝子の変化によって出現した新たな特徴が非常に『表に』現れやすいということだ。このことは『犬種』という分類で実感することができるだろう。『ラブラドール・レトリバー』と『シェットランド・シープドッグ』が『犬種』だ。生物としては、ともに同じ『カニス・ルプス』という種ではあるものの、その見た目はかなり異なる。・・・人類は、このイヌ独特の特徴を利用して、自分たちの好みにあった犬種を生み出してきた。・・・わずか数百年の間に人為的な『進化』を繰り返した結果、一部の犬種は人間がいなくては生活できず、子を産むこともできない。・・・環境の変化への『柔軟な対応』は命脈を保つことにつながったが、『無理な対応』は、さまざまな問題を生むことになった」のです。この説明のおかげで、なぜイヌはこんなにヴァラエティに富んでいるのだろうという私の疑問が氷解しました。
「やっぱり愛がイチバン!・・・翼は飛ぶために誕生したわけじゃない!?」の章には、驚くべきことが書かれています。「この数年、とくに2010年代以降に刊行された、いわゆる『恐竜図鑑』を手に取ると、多くの恐竜たちが羽毛で包まれ、そして翼のある姿で描かれている。現在では、鳥類は恐竜類の生き残りであるという見方は、ほぼ『定説』であり、恐竜類の中でも鳥類に近いとされる種類は、鳥類同様に羽毛があり、翼があったと考えられているからだ。もっとも、翼があるからといって、空を飛べたとは限らない。それどころか、恐竜類の中で翼を持つ種、翼を持っていたと考えられる種は、飛行ができなかったとみられるものの方が多い。空を飛ぶことができたとみられるものは、鳥類とその近縁のいくつかの小型種に限定されている。空を飛べないのであれば、翼は何のために存在したのだろうか?」。
「かねてより、翼の起源に関しては4つの仮説があった。1つ目は、もちろん、『飛翔のために存在した』という直球の仮説。しかし、オルニトミムスをはじめ、オルニトミモサウルス類には飛行できた種は存在しない。そのため、飛翔のために存在したという仮説は成立しないことになる。2つ目は、『獲物を捕獲するための武器だった』という仮説。・・・オルニトミモサウルス類も、基本的には植物食性だったと考えられている。すなわち、武器として使っていた可能性は低くなる。3つ目は、『走行時のバランス』として使っていたのではないか、という仮説。しかし、すでに十分な速度で走ることができたはずの幼体には翼がなかった。したがって、この仮説も可能性は低い。そして4つ目。何らかの『繁殖行動のため』だったとする仮説だ。求愛時に相手を魅了するために使っていたのかもしれない。巣で卵を保護するため、抱卵するために使っていたのかもしれないという仮説である。これは、幼体に翼がないことが証拠になりそうだ。なにしろ、繁殖行動のためというのであれば、少なくとも性成熟するまでは翼は必要ない。こうした検証の結果、第4の仮説が最有力とされている。すなわち、翼はもともと『繁殖行動のため』とみられている。そして進化の結果として、空を飛ぶことに役立つようになったということになる」。