慰安婦問題は、「職業的詐話師」吉田清治のでっち上げから始まった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1833)】
雨がしとしと降り続いています。新型コロナウイルス対策の非常事態宣言下、不要不急の外出は控えて、黙々と本を読んでいます。
閑話休題、何の先入観も抱かずに、『反日種族主義――日韓危機の根源』(李栄薫編著、文藝春秋)を読んでみました。読後、強く印象に残ったことが3つあります。
第1は、韓国人の中にも、韓国の反日姿勢に異議を唱える学者たちが存在するということ。そして、このように一冊の本として出版するに至ったこと。なお、編著者の李栄薫は、ソウル大経済学部教授を定年退職しています。
第2は、日韓関係を損なう最大の争点となっている日本軍慰安婦問題について、その出発点となった吉田清治の証言――慰安婦とすべく済州島で多数の朝鮮人女性を拉致した――は虚偽だったと明快に論証していること。朝鮮では、売春制度が太平洋戦争以前も以後も現に存在しており、日本軍の慰安婦制度だけを糾弾するのは筋が通らないと主張していること。もちろん、売春制度をよしとしているわけではありません。
「最も深刻な誤解は、慰安婦たちが官憲によって強制連行されたというものです。例えば憲兵が、道端を歩く女学生や畑で仕事をしている女性たちを、奴隷狩りをするようにして強制的に連れて行った、というようなものです。こんな話を最初もっともらしく作り、本まで書いた人がいますが、驚いたことに日本人です。1983年、吉田清治という人が『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』という本を書き、その中で1943年、部下6人と共に済州島の城山浦に行き、ボタン工場で働く女性16人を慰安婦にするため連れて行った、と記しました。この本は韓国人に大きな衝撃を与え、以降、慰安婦問題が発生するのに大きな役割を果たしました。しかし、それは嘘でした。本が刊行されたあと、済州島の郷土史家と記者たちが関連証言を聴取しようとしましたが、城山浦の住民たちは、そのようなことはなかった、と否定しました。それどころか、本を売るための軽薄な日本人の悪徳商法だ、と憤慨しました。それでも吉田清治の嘘は、なお長い間、事実のように扱われて来ました。多くの小説や映画が作られ、似たような話を広めました」。
「性奴隷説を先駆的に主張した研究者は、日本の吉見義明という歴史学者です。彼の主張によれば、慰安婦たちには行動の自由がなく、事実上、監禁された状態で意図しない性交を強要され、日本軍は彼女たちを殴ったり蹴ったりするなど乱暴に扱っており、店主への前借金と増えて行く利子に縛られていて、お金を稼ぎ貯蓄する機会を持っていなかった、だから慰安婦は日本軍の性奴隷であった、と主張しています。吉見は、日本軍が慰安婦を奴隷として連行、監禁、暴行、殺害する、反人道的犯罪を犯した、と批判しています。・・・しかし私は、関連する研究成果や史料を読んで行く過程で、性奴隷説から徐々に離れて行きました。私は性奴隷説は、慰安婦制を成立させた歴史の複雑性や矛盾をあまりにも単純化するという誤謬を犯していると思います。問題の核心は、慰安婦たちに選択の自由が全くなかったのか、という点です」。著者が、彼女らに選択の自由はあったと考える論拠が複数挙げられています。
「(性奴隷説を主張する)彼らは、貧困階層の女性たちに強要された売春の長い歴史の中で1937~45年の日本軍慰安婦だけを切り離し、日本国家の責任を追及しました。・・・私は、慰安婦制を日本軍の戦争犯罪とする認識に同調しません。それは当時の制度と文化である公娼制の一部でした。それを日本軍の戦争犯罪であると単純化し、どこまでも日本の責任を追及したのは、韓国の民族主義でした」。
「1990年以前に慰安婦問題は存在しなかったという私の主張は事実か、という疑問が湧くでしょう。そして、その主張が事実なら、なぜ以前は慰安婦の被害に言及せず、また、なぜ1990年以降になって被害に言及し、賠償を要求するようになったのか、という疑問が湧いて来ると思います」。この後に、その背景が詳述されています。
「1991年に金学順という女性が、自分は元慰安婦だった、と告白しました。次いで韓国挺身隊問題対策協議会が、放送を通して『挺身隊のおばあさんたちは、世の中に出てください。日本政府に対して公式謝罪と賠償を要求しましょう』と呼びかけ始めました」。
元慰安婦だと2番目に告白した文玉珠は、「死ぬ少し前に彼女を訪れた森川万智子に、消え入りそうな声で自分の人生を整理しました。『私は、何も知らないで、ただ、一所懸命に慰安婦生活をしたの。何回も死にかけてたの。大邱に帰ってからも骨が折れるまで働いたの。どんなに家族を大事にしたのか。死ぬ気でお金を集めたわ。男の人たちは、なぜか私のことが好きだったわ。男の人たちは言っていた。<あなたは、目が丸くてとても可愛い>。私の声は、高く澄んだ声で、高い音も良く出たわ。私の歌は日本の軍人を楽しくしたの。私は軍人たちを楽しくさせることが嫌いじゃなかったわ。山田一郎は良い人だった。彼だけではないわ。良い人がとても多くいたの。皆、可哀想だった』。そのように、彼女は死ぬ日まで、決して日本のことを呪ったりしませんでした」。
第3は、このような反日姿勢の根底には、韓国独自の種族主義――隣国の日本を永遠の仇と捉える敵対感情――が横たわっていると喝破していること。
本書では触れられていないが、慰安婦問題の理解を深めるためには、吉田清治の証言について、済州島で現地調査し、吉田の虚偽を暴いた歴史家・秦郁彦の『慰安婦と戦場の性』を読まねばと感じています。