榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

源頼光と四天王の酒天童子退治が、まんがで生き生きと甦る・・・【山椒読書論(536)】

【amazon 『まんが訳 酒呑童子絵巻』 カスタマーレビュー 2020年7月23日】 山椒読書論(536)

まんが訳 酒呑童子絵巻』(大塚英志監修、山本忠宏編、ちくま新書)では、「酒天童子絵巻」、「道成寺縁起」、「土蜘蛛草子」という3つの絵巻が現代まんがの手法で表現されている。なお、本文中では一貫して「酒天童子絵巻」と表現されているが、書名のみは出版社の要望を容れて「酒呑童子絵巻」とされている。

一条天皇の時代に、都の貴族の娘たちが次々と姿を消すという事件が起き、占いの名人・安倍晴明が、伊吹山千丈ヶ岳に棲む鬼たちの仕業と突き止める。早速、武家源氏の棟梁・源頼光に鬼退治の勅命が下り、頼光は自分の四天王――渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、平季武――、藤原保昌と共に山伏姿となって鬼の城に辿り着く。頼光らは毒酒で鬼たちを酔わせ、酒天童子の首を刎ね、囚われていた娘たちを助け出すことに成功する。この一部始終が絵巻の絵と、台詞、簡潔な説明文で綴られていく。

工夫を重ね、まんがに移し替えた制作者たちの努力によって、原作の絵巻の魅力が生き生きと甦ってくる。

とりわけ衝撃的なのは、酒天童子たちと頼光らの酒盛り中の場面だ。酒天童子の「珍しい肴はあるか」との言葉を受けて、「まないたに今切ったばかりの人のもも肉を載せて来る」。「誰か料理せよ」に応じて、「頼光は小刀を抜いて突き刺し食べてみる」。暫く経って、「いま肴として饗されたのは堀江中務の娘でした」と、囚われ酒席に侍らされている貴族の娘から明かされるのである。

クライマックスは、毒酒を強かに呑み、「高いびきで寝ており十人ばかりの女房に体を撫でさせている」酒天童子の首を、頼光がはっしと打ち落とす、血が四方八方に迸る場面である。胴から切り離された「頭は天に飛び上がり頼光に落ちかかって噛みついた」シーンも迫力満点だ。

実物であれ、複製であれ、絵巻そのものを見る愉しみは捨て難いが、こういう「まんが訳」も、どうして、どうして、愉しいものである。