榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

あの武田鉄矢が練達の読書家・書評家だったとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1972)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年9月7日号】 情熱的読書人間のないしょ話(1972)

セグロアシナガバチの雌、脱皮したカマキリの抜け殻をカメラに収めました。コスモス、ヒャクニチソウ(ジニア)が花を咲かせています。ヨウシュヤマゴボウが花と実を付けています。ナスが実を付けています。直径が9cmほどのクリの緑色の殻斗(かくと。いが)が目を惹きます。イチョウの葉と実が落ちています。

閑話休題、『人生の教養を高める読書法』(武田鉄矢著、プレジデント社)によって、武田鉄矢の読書家・書評家という一面を知ることができました。

「今回は読書家の皆さまでもあんまり手にしないような本を中心に、ご紹介したつもりです。知識が繋がって立体感をもっていく気持ち良さを皆さまと共有できれば、この上ない幸せです。では、あなたの知らない世界に、わたくし武田鉄矢がご案内いたしましょう!」という著者の目的は、十分達成されています。

妹尾武治の『脳は、なぜあなたをだますのか――知覚心理学入門』は、このように評されています。「(著者が書いていない、その先のことを)武田さんは代わりに考えた。人間の中には誤解する力、『誤解力』っていうのがあるんじゃないかって。男女の差って、この誤解力なんだ。誤解力は男性は高く、女性は低いんだ。言葉を換えれば、男性はハラハラドキドキしたがり、女性はハラハラドキドキさせたがる。これね、女性に言うと納得するよ。女性ってハラハラドキドキさせたがる生き物なんだよ。誤解させているという自信こそ女の力なんですよ。男にとって誤解することこそが生命力なんです。そして、女性にとって誤解させることこそ生命力なんだな。・・・だから恋に真実なんて意味がないんだよ。そんなのは脳の後付け。だってさ、女性が別れるときに言う言葉って、だいたい決まってるでしょ? 『あなたという人のこと、わかったわ』だよ。男性はどうかというと、『お前、そんな女だったのか!』だよな。両者ともに誤解させる力がなくなった。誤解する力も失せた。・・・恋の終わりとはそういうものじゃないかなぁ。そう考えると誤解するのも一種の生命力と言えないかい?」。

こういう書評ができるというのは、取り上げた本を武田が自分に引き寄せて、深く読み込んでいるからです。

『ステファノ・マンクーゾの『植物は<未来>を知っている――9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』の書評には、こういう一節があります。「そんなことをつらつら考えているときに出会ったのが、この本。・・・でもさ、脳みそを持ってない植物に、本当に未来を予知する能力なんてあるのかな。そもそも、植物と動物ってあまりに差があると思わない? 植物を見るときに動物の私たちは、自分たちと全く違う生き物として見てるよね。その証拠は言葉の使い方ひとつにも表れてるんだ。植物は動物と同じように環境に適応し、己の姿を変化させていきます。動物だとこれを進化って呼ぶよね。でも植物は違うんだ。進化と呼ばずに『順化』って呼んで、別の扱いをする。これは植物を同列に見ていないからじゃないかな。生物っていったい何だろう。そう問われたら、『己の姿を変化させることによって生き延びようとするもの』というのが一つの答えになるんじゃないかな。そう考えれば進化も順化も同じではないか。植物だって経験を記憶し、自らの組織構造と代謝を修正して己を変化させているんではないか。そういうことがこの本のテーマになっているんです」。

マンクーゾが挙げている植物の9つの能力のうちの記憶力に武田は注目しているが、一方、私は分散化能力に刮目し、2年前に、「棒物は『集中』『運動』の、植物は『分散』『適応』の戦略を選択した」というタイトルの書評をブログとamazonに載せています。

身につまされる本が紹介されています。小林弘幸の『人生で一番役に立つ「言い方」――自律神経を整える』です。「不安が薄らいだ瞬間に倍速で身体が再生していくような感覚を実際に体験したんですな、若き日の小林教授は。『ものは言いよう、ものは聞きよう』と言いますが、言葉は心だけでなく、身体にも大きな影響を与えるんです。・・・私も読者の皆さんも同じだと思うんですが、失敗したときに『クソ!』って呟いたりするでしょ。でもこの一言だけで自分の自律神経のバランスは乱れてしまうんだって。それから相手をののしるとき、たとえ自分ひとりの場でも『バカ!』って言葉を使うべきではない。それだけで自分の自律神経までも乱してしまう。ひいては自分の健康を害する医学要因にさえなりうるんだってさ。怖いねえ。俺なんかいい歳こいて『クソ!』とか『バカ!』とか連発することがありますからねぇ。という訳で私が手に取ったその一冊によって、自分の言葉遣いに関しても考えさせられました。・・・小林教授曰く、副交感神経をゆったりさせるには、ゆっくり喋ることなんだそうです。慌てずにゆっくりと話せば、相手をきちんと観察し、相手がどうすれば喜ぶかを考えながら話すことができます。逆にたくさん話そう、自分の存在をアピールしようとすることを考えると、必ず先読みしながら喋ることになる。先読みするというのは何事も想定内だという余裕を見せるための自己演出ですよね。でもそれをすると必ず無駄な想像が追加されて、すぐに良からぬ予想が浮かび上がってしまいます。そしてこれがなんと『自業自得の妄想』を呼び出して副交感神経を乱す。つまり発言ミス、失言が起こりやすい状況に陥ってしまうんですな」。

何と、年甲斐もなく「クソ!」と言ったり、早口でしか喋れない私の問題点が、ズバリと指摘されているではありませんか。これは、何を措いても大至急で読まなくては!

武田の書評を読んで、布施英利の『人体 5億年の記憶――解剖学者・三木成夫の世界』も読みたくなってしまいました。