榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

著者の挑戦的な生き方が根底に横たわる、書評集的エッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2209)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年5月1日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2209)

ホオノキ(写真1、2)、アヤメ(写真4、5)、ジャーマンアイリス(写真6、7)が咲いています。我が家の庭では、モチツツジの園芸種・ハナグルマ、小さな桃色のバラが咲き始めました。

閑話休題、『You are what you read.――あなたは読んだものに他ならない』(服部文祥著、本の雑誌社)は、書評集というよりも、書籍を巡るエッセイ集という趣の本です。著者の挑戦的な生き方と、各エッセイの独創的なタイトルが印象に残る一冊です。

●自分以外になぜかなれないこの世界 命の起源哲学降参――『存在と時間 哲学探究1』(永井均著)――
「命とはなにかに関する考察のファイナルアンサーがあるかもしれない。そう思ってここ数ヶ月(本書と)格闘してきた。・・・そして最終章、ネタバレになるが書いておこう。<ああでもないこうでもないと、これだけ論じてきたが、じつは肝心なことは何も明らかになっていない。そもそも明らかになりようがないことを論じてきたからである>。ええ? そうなの? <どんな原因から生じたか分からないのは、それゆえに本質的に因果的把握が不可能だからである>。ちょっとまってよ。私の三ヶ月は何だったんだよ? 初めて挫折しなかった頭の良さそうな本なのに・・・」。永井均は難しい哲学を分かり易く解説する名人だが、服部がこう書いているのを知り、『存在と時間 哲学探究1』に挑戦するのは止めました(笑)。

●よたよたと大地を離れた飛行機は登山者と似て野望を乗せて――『夜間飛行』『人間の大地』(サン=テグジュペリ著、堀口大學訳)――
「サン=テグジュペリが描き出す、発展途上の飛行機に情熱を傾けた若者たちは、山登りという意味のわかりにくい行為に青春を捧げた若者たち(自分)にどこか似ていた。飛行士たちのやや込み入った破滅的傾向は登山者の代弁をもしてくれていた。酒やドラッグに溺れるタイプの破滅ではない。行為そのものは自堕落の対極にある。自己を鍛え、綿密な計画を立て、生存と成功の可能性が最も高い合理的な方法を採用する。だが、そもそもなしえようとしている目標が尊大なうえに不合理なので、どんなに合理性を積み重ねても、ときに成功も生存もかなわない。・・・できないことができるようになること。経験を積んだ結果、経験をする前の自分と後の自分が違うもののように感じること。『できた』『わかった』『勝った』はシンプルで純粋な喜びであり、自分で自分を超えていく手応えは、そのまま生命体を魅了する。だから挑戦からリスクがなくなることはない」。飛行機運転や登山といった挑戦には縁がない私でも、これまでできなかったことができるようになったときの高揚感は身に覚えがあります。

●情熱を失わないのが才能と羽生は言うけど藤井どうなの――『棋士という人生 傑作将棋アンソロジー』(大崎善生編)――
「タイトル通り将棋棋士たちの業が滲み出した生き様や真剣勝負が生々しく報告される。・・・『人生はやり直せる』などという言葉は、やり直せる程度の人生にしか当てはまらない。私の授業を受けた大学生も、『取り返しのつかない時間』という名の青春を必死に生きているのだろう。この三段リーグにまつわる青春を記した棋士は、舌ガンが体中に転移して、志半ばで夭折した。プロになれるにしろなれないにしろ、勝負に人生をかけた男たちは特別である」。『棋士という人生 傑作将棋アンソロジー』を、早速、私の「読みたい本リスト」に加えました。