椎名誠の新型コロナウイルス感染症罹患時期の日記・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2850)】
ツグミ属の3種――アカハラ(写真1)、シロハラ(写真2~5)、ツグミ(写真6~8)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は11,909でした。
閑話休題、『失踪願望。――コロナふらふら格闘編』(椎名誠著、集英社)は、新型コロナウイルス感染症に罹患したりした時期の日記だけに、かつての自由奔放な椎名節は影を潜めています。
個人的に印象に残ったのは、●映画『アラビアのロレンス』、●広野八郎の『外国航路石炭夫日記』、●井上靖――に言及した件(くだり)です。
●『アラビアのロレンス』
「自宅で映画『アラビアのロレンス』を見た。壮大な砂漠の風景、エキゾチックなアラビアという文化。デヴィッド・リーン監督が作り上げたエンターテインメントは質が高いが、それ以上に実話というすごみもあった。イギリスという大国の狡猾さや汚さ、オスマン帝国が戦争史の中でどういう存在だったかを学べた、ぼくにとっては大切な作品だ。ロレンス役の当時まだ無名だったピーター・オトゥールがマッチの火を指で消すと暗転し、アラビアの広大な砂漠に変わるシーンがあるのだけれど、これがハッとするほど美しくすばらしい。・・・『映画』というものの強さに圧倒され続けた」。私も『アラビアのロレンス』には圧倒されました。大好きな作品です。
●『外国航路石炭夫日記』
「最近、プロレタリア文学を読み返している。今日は広野八郎の『外国航路石炭夫日記』だ。個人的には小林多喜二『蟹工船』に並ぶプロレタリア文学の傑作だと思っている。若い頃に読んだ時はけっこうなスピードで読んだが、歳をとってじっくりページをめくると、また違う発見があるのが面白い」。椎名誠にこう言われては、『外国航路石炭夫日記』を読まないで済ますわけにはいきませんね。
●井上靖
「作家の凄さというのを井上靖さんから学んだ。・・・楼蘭の空は初めて見る色をしていた。砂漠の晴天というのは見上げている自分が怖くなるほど青すぎて黒く見える。そこに星が見えた。真昼の星である。一緒に持って出た『楼蘭』という西域を舞台にした短篇集をあらためて現場で読んだ。美しい短篇小説で、先生は絶対にその目で見ていないはずなのに、まるで見事に生き生きとその土地の風景を活写しているのが恐ろしいほど印象的だった。もう一つ、作家の凄さを感じたのは、『おろしや国酔夢譚』の漂流船、神昌丸に乗ってアリューシャン列島に漂着したときの周辺の描写だった。・・・作家というのはすごい仕事なのだなあとぼくのようなぼんくらモノカキはつくづく思ったものだ」。『楼蘭』は、私の愛読書です。
著者自身の『哀愁の町に霧が降るのだ』に関し、興味深いことが記されています。「ぼくが『哀愁の町に霧が降るのだ』を書いたのはまだ三〇代だった。堅くて暗い業界紙のサラリーマンをしている頃だったので、自由になんでも好きなように書ける、というのはまさに、人生の別天地を見つけたような気がした。たしか一年のうちに『哀愁の・・・』の三部作を書いてしまった記憶がある。書く、ということに辛さは何もなく楽しいだけの時代だったなあ」。私が椎名誠の熱烈なファンになったのは、『さらば国分寺書店のオババ』、『哀愁の町に霧が降るのだ』等に衝撃を受けた、まだ若い時分だったことを懐かしく思い出してしまいました。