榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

貧しいが正直な青年が、この世には金(かね)より大切なものがあることを知る物語・・・【山椒読書論(785)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年5圧4日号】 山椒読書論(785)

『百万ポンド紙幣――マーク・トウェイン ショートセレクション』(マーク・トウェイン著、堀川志野舞訳、ヨシタケシンスケ絵、理論社)に収められている『百万ポンド紙幣』は、貧しいが正直な青年が、この世には金(かね)より大切なものがあることを知る物語である。

「きみは正直で利口な人間だ。顔を見ればわかる。それに、金に困った外国人のようだ。ここにいくらか金を同封しておく。それを30日間、無利子できみに貸すものとする。30日後、この屋敷に報告しに来てくれたまえ。わたしはきみに賭けている。もしもわたしが賭けに勝ったら、お礼としてどんな地位でもきみに与えよう――きみがその仕事に精通していて、立派に果たせると証明できるなら、どんな地位でも」という、署名も住所も日付もない、何とも厄介で不可解な謎の手紙を青年は受け取ったのである。しかも、100万ポンド紙幣とともに。

「借金まみれで、一文無しで、素敵なお嬢さんを幸せにするのも悲しませるのも自分しだいで、目の前にあるのは、現実には手に入らないかもしれない――いや、きっと手に入らない――給料だけだ! ああ、ああ、ああ、ぼくは絶望のどん底にあり、救ってくれるものは何もないのだ!」。

「ぼくはいつもこう言っている。『そうとも、見てのとおり、これは100万ポンドの値打ちのあった紙幣だ。でも、これを使って買ったものはひとつしかない。しかも額面の10倍は価値があるものが手に入ったんだ』」と結ばれている。めでたし、めでたし。