榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

この年で昔物語を読み返すと、妙なことが気に懸かる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(634)】

【amazon 『いっすんぼうし』 カスタマーレビュー 2017年1月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(634)

一番好きな映画のシーンは、と聞かれたら、躊躇なく、『第三の男』のラスト・シーンと答えます。第二次世界大戦直後のオーストリア・ウィーンを舞台に愛と友情、裏切りが描かれた作品ですが、中央墓地の冬枯れの並木道で待ち構えている男の前を女性が目もくれずに歩み去る場面が心に焼き付いています。ウィーンに行った時、この並木道を訪れたことを懐かしく思い出します。

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閑話休題、何冊もの絵本を音読してみて、1月の図書館での読み聞かせ用には『こよみともだち』『かさじぞう』『せんたくかあちゃん』を、小学校での読み聞かせ用には『いっすんぼうし』『おじいちゃんの ごくらく ごくらく』を選び出しました。

子供の頃は昔物語を無心で読んでいたものですが、この年で読み返してみると、妙なことが気に懸かるのです。『いっすんぼうし』(石井桃子文、秋野不矩絵、福音館書店)は、石井桃子の巧みな文と秋野矩絵の気品ある絵が物語の世界に誘ってくれるのですが、不良老人はこんなことも考えてしまうのです。

「むかし あるところに、おじいさんと おばあさんが すんでいました。としをとるまで、こどもが ありませんでしたので、それを なりより さびしく おもっていました」。二人はお天道様に子供を授けてくださいとお願いします。「すると そのうち、おばあさんの おなかが いたくなって、あかんぼうが うまれました」。この老夫婦は、かなりの年になっても、不妊克服という夢を諦めなかったのですね。

「ところが、いっすんぼうしは、五つになっても 七つになっても、おおきく なりません。十二、三になったころには、まいも まえ、うたも じょうずに うたえるように なりましたが、からだは あいかわらず ちいさくて、いえのてつだいは なんにも できません。おじいさんと おばあさんは がっかりし、むらの こどもたちは、『ちび ちび』といって、ばかにするように なりました」。一寸法師は、この逆境をどのように生き抜いたのでしょうか。

都の大臣の邸宅では、「いっすんぼうしは みなから かわいがられましたが、なかでも いちばん いっすんぼうしを きにいったのは、だいじんの おひめさまでした」。

一寸法師がやっつけた鬼が残していった打ち出の小槌を姫が振ると、一寸法師の体が大きくなり、「ひめのまえには、りっぱな わかものが たっていました」。「そのご、いっすんぼうしは、しゅっせして、やがて、ひめを はなよめに むかえ、おじいさん おばあさんも よびよせて、しあわせに くらしました」。めでたし、めでたしとなるわけですが、姫の一寸法師に対する感情は、彼が小さかった時と、大きくなってからとでは、どう変化したのでしょうか。

読み聞かせ当日は、このような余計なことは考えずに、子供たちが物語に没入できるよう頑張ります。