寺山修司がこういう作品も書いていたとは!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3178)】
ジョウビタキの雌(写真1)、ムクドリ(写真2)、ツグミ(写真3)、ヒヨドリ(写真4)をカメラに収めました。ロウバイ(写真5、6)とソシンロウバイ(写真7~11)が咲き競っています。散歩中のグレイト・ピレニーズ(雌。6歳。写真12)に出会いました。
閑話休題、『さみしいときは青青青青青青青――少年少女のための作品集』(寺山修司著、ちくま文庫)で、とりわけ印象的なのは、「かもめ」、「いるかいないか」、「ポケットに恋唄を」、「水妖記4」、「海のリボン」という5つの短い話です。寺山修司がこういう作品も書いていたとは!
●かもめ
「『世の中には、人生の上手なやつと下手なやつがいるものだ』。老人は、孫の頭をやさしく撫でてやりながら、もう一度海のかもめの数を数えはじめた。ほんとうに、航海向きのいい日和だった。わたしは、ロマンスなんて信じない、現実はけっして甘いものではないのだ――老人は、そうつぶやいた。それは真実だった。だが、老人はまだ、心の奥深くあの夜の少女を愛していたのである」。
●いるかいないか
「『いるかさん!』と少女は胸をおどらせて、いるか語で呼びかけた。『あたしは人間のことばをぜんぶ忘れて、やっといるか語を手に入れました。それというのも、あなたに恋をうちあけたかったからなのよ。さあ、あたしにいるか語で話しかけてちょうだい!』。するといるかは目をショボショボさせて、思いがけないような表情をした。それからびっくりするような素晴しいバリトンの人間のことばで、こんなふうに語るのだった。『ああ、お嬢さん。ぼくはいるかです。この二十年間一生懸命努力して、いるか語をすっかり忘れ、やっと人間のことばを手に入れたんですよ。もういるか語が全然わからないけど、人間のことばで恋をうちあけることができるってわけですよ!』。だから少女といるかが、恋しあうためには、またまた二十年も待たねばならなかった・・・というお話」。
●ポケットに恋唄を
「軽い男『なんだか変だけど、きみと話していると、ぼくは浮かばずにいられるような気がするんだ』。少女『でも、ことばに重さなんてあるのかしら?』。軽い男『わからない。だけど、きみのことばはぼくの重さになってくれる』。だから、彼と少女は毎日逢って話すことになったのです。 でも、ほんとうにことばに重さなんてあるものでしょうか? ぼくの答え。『ことばには重さはないけど、愛には重さがあるのです』」。
●水妖記4
「さみしいときは 青 という字を書いていると落着くのです 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青 青」。
●海のリボン
「せっかく、一生に一度だけ『あなたを愛しています』という日を待ちつづけていたのに、その日を前にして、また口がきけなくなってしまったというのは、なんというみじめなことだろう。そう思うと、サキは生きていることが、まるで無意味に思えてきた。溪谷のせせらぎにうつっている、ひとりぼっちの自分。カワセミの声を聞き、目をとじた。そして、黄色いリボンをむすんだまま、川に飛びこんだ。サキの水死体が見つかったとき、そこにはもう、黄色いリボンがむすばれていなかった。・・・『なみだは、この世でいちばん小さい海である』」。