「サンカ」とは何だ、「サンカ小説」とは何だ――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その74)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(161)】
【読書の森 2024年4月27日号】
あなたの人生が最高に輝く時(161)
●『サンカの真実 三角寛の虚構』(筒井功著、文春新書)
●『サンカ学の過去・現在、そしてこれから』(利田敏ほか著、批評社)
●『三角寛「サンカ小説」の誕生』(今井照容著、現代書館)
知らない言葉に出くわすと、気になって仕方がない、私はそういうタイプの人間である。17年前に「サンカ」という言葉に興味を抱き、『サンカの真実 三角寛の虚構』(筒井功著、文春新書)によって、サンカとは「山窩、すなわち、移動しながら山奥や河原に仮の居を定め、漁猟や竹細工などを生業としていたとされる人々」のことであり、サンカの人々と密接に接触していると吹聴し、サンカ学の第一人者を自称した三角寛(ミスミ・カン)という男は、その自ら記す経歴に実の娘も首を傾げるような、相当いかがわしい、胡散臭い人物であることを知った。
この好奇心の延長線上で、今回、『サンカ学の過去・現在、そしてこれから』(利田敏ほか著、批評社)と『三角寛「サンカ小説」の誕生』(今井照容著、現代書館)を手にしたわけだが、特に後者からは学ぶことが多かった。
1903(明治36)年生まれの三角は東京朝日新聞の契約記者としてスクープを連発し、戦前は、実話と称する「サンカ小説」シリーズで一世を風靡したが、このサンカ小説に登場するサンカたちは特殊な言葉や習慣を有する犯罪集団として描かれている。ところが、日中戦争の泥沼化という時代の変化とともに、三角は彼らを自然の中で生活する自由な人々というイメージで語るようになる。
私たちは、三角という人間を通じて、サンカのみならず、時代の空気に触れることができるのだ。