榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

悠々たる哉(かな)天壌(てんじょう)、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此(この)大(だい)をはからむとす。・・・【ことばのオアシス(番外扁その1)】

【amazon 『青春の文語体』 カスタマーレビュー 2013年7月29日】 ことばのオアシス(番外扁その1)

悠々たる哉(かな)天壌(てんじょう)、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此(この)大(だい)をはからむとす。

――藤村操(みさお

明治36(1903)年5月22日、日光・華厳の滝に身を投げた藤村 操(男性)が滝の上のミズナラの大樹を削って墨書した遺書「巌頭之感」の一節。「ホレーショの哲学竟(つい)に何等のオーソリチィーを価するものぞ。万有の真相は唯だ一言(いちごん)にして悉(つく)す、曰(いわ)く「不可解」。我この恨みを懐いて煩悶、終(つい)に死を決するに至る。既に巌頭に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。始めて知る、大なる悲観は大なる楽観に一致するを」と続く。

当時は哲学的な死と一大センセイションを巻き起こし、華厳の滝に投身する者が続いたという。その死はさておき、16歳の旧制一高生の文章力には舌を巻く。

安野光雅編著の『青春の文語体』(筑摩書房)に、この「巌頭の感」が収録されている。藤村の死は、一つ年上の恋人・馬島千代に失恋したためとされており、失恋したくらいで死ぬなと、若い読書に語りかけている。