松本清張の総代理店主・酒井信に脱帽!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3380)】
そんなに睨まないで!
閑話休題、私は松本清張を心の底から敬愛しています。その作品にも、生き方にもぞっこん惚れ込んでいるのです。清張作品はかなり幅広く読み込んでいるつもりだが、このほど手にした『松本清張がよみがえる――国民作家の名作への旅』(酒井信著、西日本新聞社)には脱帽です。酒井信というのは、まるで、清張亡き後の総代理店主のような存在です。
脱帽したのには、3つの理由があります。
第1は、取り上げられている清張の50作品の魅力が遺漏なく提示されていること。
例えば、『天城越え』は「ブラック清張の名作 川端の代表作に対抗」とされています。『日本の黒い霧 下山国鉄総裁謀殺論』では、清張が下山総裁に深く同情していることが指摘されています。『昭和史発掘 芥川龍之介の死』で、芥川の死は文学や芸術上の問題ではなく、世俗的な問題(女性関係)によるものだとしているのが、いかにも清張らしいと評しています。
第2は、その作品との親近感から思い浮かぶ他の作家の作品にも言及されていること。
例えば、『半生の記』では、「このような経歴を持つ現代の作家は少ないが、『叩き上げ』のミステリ作家として宮部みゆきが思い浮かぶ」と、宮部みゆきの経歴・作品が紹介されています。『昭和史発掘 芥川龍之介』では、「歴史に名を残した作家たちが俗世を生き、私たちと変わらない、ちょっとした人間関係のこじれや、些細な感情の行き違いに悩んでいたことを『ノンフィクション』のように記す本作の筆致は、清張と同時代に活躍した山崎豊子の文体を想起させる」と記されています。『神々の乱心』では、タブー視される題材に切り込む作風が高橋和巳の『邪宗門』を想起させると述べています。
第3は、隅々にまで著者の清張愛が漲っていること。
今後、清張作品を読み返すときは、総代理店主の言い分を聞いてからにしようと思い定めました。