同じ景色でも、動物には人間とは違う景色が見えている――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その168)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(255)】
【読書の森 2024年7月29日号】
あなたの人生が最高に輝く時(255)
●『生物から見た世界』(ヤーコブ・フォン・ユクスキュル著、ゲオルク・クリサート絵、日高敏隆・羽田節子訳、岩波文庫)
1934年に、このような生物学が発表されていたとは、文字どおり目から鱗が落ちる思いがした。
『生物から見た世界』(ヤーコブ・フォン・ユクスキュル著、ゲオルク・クリサート絵、日高敏隆・羽田節子訳、岩波文庫)は、刊行された年に関係なく、新鮮な驚きを与えてくれる。
ユクスキュルの考え方は、一言で言えば、「同じ景色でも、動物には人間とは違う景色が見えている」というものだ。しかし、この私の言い方では、ユクスキュルの気に入らないかもしれない。彼は、「動物には見えている」のはなく、「動物が主体的に見ている」のだと文句を言うことだろう。
著者は、主体(人間や動物)の周りに単に存在している客観的な「環境」と、主体が意味を与えて主体的に主観的に構築した世界である「環世界」を区別すべきだと主張しているのだ。
中でも、カラーの口絵は衝撃的である。同じ室内が描かれているが、人間にとっての部屋は、さまざまな家具や床、食器、照明がそれぞれ異なる色で表されている。これが、イヌにとっての部屋では、自分が座ることができる床、家具と食器だけがそれぞれ異なる色で表されている。さらに、ハエにとっての部屋となると、食器と照明だけにしか色が着いていないのだ。誤解を恐れずに要約すれば、人間も含め、動物は自分にとって重要な意味を持つものしか見ていないということである。
現在、主流の分子生物学はもちろん重要であるが、ユクスキュルの生物学を知ることも必要だと反省頻りの私なのである。
このユクスキュル独自の生物学は、生物記号学という新たな学問に継承されている。