榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

夏目漱石は社会主義者? 漱石と探偵小説の関係・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3438)】

【読書の森 2024年9月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3438)

フウセンカズラ(写真1)が花と実を付けています。キノコ(写真2、3)が生えています。

閑話休題、『漱石<門>から世相史を読む』(中西昭雄著、作品社)は、夏目漱石の作品『門』を手がかりにして、日露戦争後の世相を考察しようというユニークな一冊です。

個人的に、とりわけ興味深いのは、●漱石は社会主義者? ●石川啄木が『門』を校正、●漱石と探偵小説――の3つです。

●漱石は社会主義者?
1906年8月11日付の「都新聞」に、電車賃値上げ反対の行列に漱石の妻も参加していたという記事が掲載されたが、これは誤報だったのです。この「都新聞」を送ってきた深田康算への礼状の中で、<小生もある点に於て社界主義故>新聞に出ても毫も驚かない、と漱石が書いています。漱石は1907年1月に「ホトトギス」誌上で「野分」を発表したが、この作品の中で社会主義に好意的は主人公を登場させています。

●啄木が『門』を校正
啄木が東京朝日新聞社の校正係に就職したのは1909年3月1日、啄木24歳の時でした。啄木が校正係をしていた時、漱石の『それから』と『門』が、朝日新聞に連載されました。その校正を啄木も担当し、『それから』を一番初めに読んだのは僕だ、と日記に書き残しています。

●漱石と探偵小説
『門』の次の新聞連載小説『彼岸過迄』の中に、当時の日本ではまだ人々の関心引くに至っていない「探偵小説」という言葉が出てきます。漱石がイギリスに留学中の1901年8月からコナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』の連載が始まっており、読者の反響が大きかったので、漱石も関心を持ったことでしょう。漱石が『彼岸過迄』で敢えて「探偵小説」風の設定と叙述を採用したのは、読者へのサーヴィス精神の現れだろうと、著者は述べています。