榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

徳川家康によって猿楽師から幕府金銀山総奉行へ引き上げられた大久保長安が抱いた不安とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3492)】

【読書の森 2024年10月31日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3492)

水浴びをするセグロセキレイ(写真1、2)、ハラビロカマキリの卵鞘(写真3)をカメラに収めました。町会の子供たちが次から次へと、Happy Halloween! Trick or treat!とやって来ます。我が家では白面男が菓子を渡したのだが、高学年の女の子たちから、お面を取って顔を見せて!とせがまれたのには、白面男もたじたじでした(写真4~8)。

閑話休題、『松本清張全集(35)――或る「小倉日記」伝』に収められている『山師』は、金銀山開発に辣腕を振るった大久保長安が主人公の歴史小説です。

ぱっとしない中年の猿楽師・大倉藤十郎は、徳川家康に金山開発の才能を高く評価され、大久保石見守長安となり、遂には、日本中の幕府金銀山の総奉行にまで出世します。

ところが、「ここまでの地位にきて、長安は不安を感じたのであった」。

「長安が、常から漠然と抱いた不安は、家康というただ一人の人間に生涯の浮沈を握られているという意識が潜んでいたからであった。たった一人にという不安である」。長らく企業人として過ごしてきた私には、組織でのポストが上昇すればするほど、このような不安にまとわりつかれることが実感できます。

長安病没後10日もたたぬうちに、家康によって長安の私財は悉く取り上げられ、7人の子は死罪とされます。「長安の処分ことごとく相済ませたと本多正純が報告した時、家康は、『山師めが!』と一語を吐いて横を向いた」。

「あとがき」で、松本清張自身が「私の歴史小説としては最初に気に入ったものである」と述べています。