榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

編集者ならではの、親しく接した作家たちの息遣いが伝わってくる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3525)】

【読書の森 2024年12月1日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3525)

イチョウ(写真1、2)が黄葉しています。イロハモミジ(写真3)、ドウダンツツジ(写真4)が紅葉しています。ユズ(写真5、6)が実を付けています。我が家の餌台の常連のシジュウカラ(写真7、8)とスズメ(写真9。10)。因みに、本日の歩数は11,331でした。

閑話休題、『黒衣(くろご)の歳時記――文藝編集者という生き方』(久米勲著、共育舎)は、編集者の作家たちとの交遊録です。編集者ならではの、親しく接した作家たちの息遣いが伝わってきます。

●吉行淳之介――「やはり文章は金をかけなきゃだめだなあ」。

●和田芳恵――「私は毛並みがわるい、もの書きなので・・・」。

●倉橋由美子――倉橋由美子の作品は、彼女の頭が想像し、醸造し、創造したものであって、四十五年の長きに亘って、読者を喜ばせてくれた。知的たくらみの成果、いわば倉橋ワールドだ。

久米勲が、大人の恋、若者同士の恋、実の親と育ての親、母親との相剋、記憶喪失、そして恰好いい父親との近親相姦・・・ここに描かれているのはすべて作者の想像と創造の産物だと言う長篇小説『聖少女』を無性に読みたくなってしまいました。

●司馬遼太郎――ぼくの年来の考えは、司馬遼太郎は伝奇小説(ロマン)の作家である、ということだ。そのことを忘れて、思想家、歴史家のように出版ジャーナリストや政財界人たちが扱うのは、司馬遼太郎の一つの面だけを崇め奉っていて、本来の姿を見失っているのではないか。

伝奇と想像力と創造力、それが司馬だというのです。

●永井路子――永井路子さんは、文学に志して以来、歴史小説を書くに際して、歴史に対して己を排除しつくし、「手擦れたキー・ワードを一切はずし」て、そうした耳慣れた言葉を剥ぎ取って、でも真似出来ない確たる文体を創造してきたのだ。そして、『岩倉具視』を書くために、多くの歴史小説、史伝を書いて来たのだ。『岩倉具視』を書くためにこうした生き方をして来たのだ。それらがついに、この『岩倉具視』で完成し、岩倉具視を完成させた。

ここまで言われたら、永井路子の『岩倉具視』を読まずに済ますわけにはいきませんね。