患者のために、保険薬局の薬剤師は「かかりつけ薬剤師」を目指せ・・・【山椒読書論(22)】
『外科医、薬局に帰る――超高齢社会における新しい医療環境を目指して』(狭間研至著、薬局新聞社)は、保険薬局の薬剤師にとって必読の書である。また、ドクター、MRにとっても、有益な示唆が得られる一冊である。
薬局の息子として育ち、大阪大学を出て外科医となり、そして薬局経営に携わるようになった著者の主張は、一見、過激に見えるが、現在の医療の問題点を鋭く抉り出しており、保険薬局の薬剤師は目が覚めた思いがするだろう。
「保険薬局の薬剤師は、真の意味での『かかりつけ薬剤師』になるべきだ」というのが、著者の結論である。処方箋調剤を柱にした業務におけるかかりつけ薬剤師ではなく、もっと患者と主体的に接する、そして我が国における「かかりつけ医」不在の現状を改善すべき、新しいかかりつけ薬剤師を目指せというのだ。
保険薬局には、病院や診療所にない、素晴らしい利点がいくつもある、と病院と保険薬局の双方に通じている著者は断言する。患者の観点に立てば、保険薬局は予約が要らない、あまり待たずにすむ、開いている時間が長い、しかも相談するだけなら無料だというのだ。すなわち、扉を一枚開けると専門家に会えるというのだ。この身近な専門家である薬剤師が、薬学・薬理の知識に加えて、医学、特に解剖・生理・病理学の知識を身に付けていれば、患者にとって非常に心強い存在になるというのである。この医学知識のレヴェルは、「看護師と同程度の医学的知識」を想定している。その具体的な業務は、調剤における服薬指導や、OTC、サプリメント、健康食品などの販売における健康管理・指導をより効果的なものにしていくことを目指している。
薬剤師が医学知識を身に付けるのは難しいという意見に対しては、著者は2つの理由を挙げて明快に反論する。1つは、パレートの法則に則り、膨大な医学知識のうち優先順位の高い20%を学んでおけば、80%の患者に対応できるはずだというのだ。もう1つは、ITの進歩を踏まえれば、学習も情報の入手・活用も十分可能になるというのだ。
「薬剤師にもできることではなく、薬剤師にしかできないこと」を行うことによって、「病(院)診(療所)連携」に加えて、「診(療所)薬(局)連携」「病(院)薬(局)連携」が可能になれば、親身なアドヴァイスを求めている患者のためになる、というのが著者の揺るぎない確信である。
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