榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

地域包括ケアを支える医療提供施設としての「薬局3.0」を目指せ・・・【MRのための読書論(118)】

【Monthlyミクス 2015年10月号】 MRのための読書論(118)

調剤薬局の経営戦略

薬局マネジメント3.0――次世代型地域薬局の機能と経営戦略』(狭間研至著、評言社)は、本来、調剤薬局の経営者向けに書かれた経営戦略の本であるが、調剤薬局との関係強化を目指しているMRや製薬企業幹部にとっても喫緊の必読書と言える。

必読書と断言するのは、3つの理由に拠る。第1は、調剤薬局の歴史(薬局1.0→薬局2.0)を踏まえて、これからの調剤薬局(薬局3.0)はどうあるべきかという歴史観、大局観に基づいていること。第2は、企業の経営戦略やマーケティングで繁用されるロジカル・シンキングの知識・ツール――ブルー・オーシャン戦略、ランチェスター戦略、エクスペリエンス・マーケティング、SWOT分析、PDCAサイクル――が総動員されていること。第3は、戦略理論に止まらず、具体的な対応策もきっちりと提示されていること。

「変貌しつつある医療環境と地域社会において、薬剤師に求められる役割(機能)を洗い出し、薬剤師がいきいきと活動できる(それは同時に、薬局経営を継続し、地域の医療サービスに貢献できるということにもなりますが)薬局をいかにつくりだせばよいのか、また、そのためにはどのようなマネジメントが求められるのか、着手すべき戦略や戦術の考え方や手法はどうあるべきかなどを体系的にまとめた」。

薬局3.0のイメージ

著者は、「この40年間で急激な成長をとげ、上場企業を多数輩出し、いまや全体で7兆円を上回るようになった調剤薬局業界の今後は、患者数の減少、客単価・利益率の低下、成長カーブの鈍化という問題に直面していることもあり、けっして明るいものではない」という危機意識から出発している。

薬局1.0、2.0、3.0とは何か。●業態:1.0=小売業、2.0=調剤薬局、3.0=医療提供施設、●提供するモノ:1.0=一般用医用品+医療雑貨、2.0=医療用医薬品、3.0=医療・介護の解決策、●メインの業務:1.0=商品販売、2.0=医薬品供給、3.0=国民の健康な生活の確保、●薬剤師の役割:1.0=商品の販売と相談、2.0=薬の説明とお渡し、3.0=医療の問題の解決――著者の説明が明快なので、具体的にイメージすることができる。「薬剤師が医療の現場で多職種と連携しながら、医療そのものの目的である患者の病状の改善や疾病の治療に積極的にかかわっていくという方向性は、薬局の価値の向上にとって不可欠な考え方のように思う」。

薬局2.0での処方箋調剤業務では、処方箋に準じて医薬品を迅速・正確に調製し、適切な服薬指導とともに患者に医薬品という「モノ」を提供することが価値のようになっているが、薬局3.0で重要なのは「モノ」ではなく「体験」なのだ。例えば、胃内視鏡検査の際、念のため生検を受けて止血剤を処方され、「がん細胞が見つかったらどうしよう」と不安がいっぱいの患者の気持ちに寄り添い、「体験」を共有しようといったものである。

具体的な対応策

著者は、調剤や薬の配達に止まらない、介護施設や在宅ケアなどの地域医療と一体化した薬局3.0を目指そうと呼びかけている。マラソンに譬えているので、薬剤師の役割が理解し易い。「薬を渡すのではなく、『健康を渡す専門家』としての薬剤師のあり方は、まさに給水ポイントのスタッフからコーチへの転身ということになる。病める患者にとって、医薬品というツールに強みをもつコーチとしての薬剤師こそが、薬学教育が6年制となり、超高齢社会に突入した我が国で求められる新しい薬剤師の姿(=薬剤師3.0)ではないかと考える」。

「薬剤師として『薬を出した後の患者の状態を、薬学的専門性をふまえて評価し、次回の処方箋発行前に医師とその情報を共有して、よりよい薬物治療に貢献する』ことの社会的意義は大きく、それこそが『薬局3.0』『薬剤師3.0』の基本となる考え方であり、それを実現するためのマネジメント手法が必要なのだ」。

薬局3.0を実現するには組織の全員の協力が不可欠である。①組織内での認識の共有化(組織内根回し)、②トップの宣言(決断)、③マネジメント戦略・戦術の策定、④従業員への浸透と理解――薬剤師の意識改革、⑤営業の仕組み、組織を変える(出店戦略、人材戦略)、⑥PDCAサイクルを回す――の6ステップを踏むことが必要だ。