アップル帝国の植民地と化した日本企業群の実態リポート・・・【山椒読書論(416)】
『アップル帝国の正体』(後藤直義・森川潤著、文藝春秋)は、アップルによって植民地化されてしまった日本企業の実態を鋭く抉り出している。
「アップルの『ものづくり』支配」、「家電量販店がひざまずくアップル」、「iPodは日本の音楽を殺したのか?」、「iPhone『依存症』携帯キャリアの桎梏」、「アップルが生んだ家電の共食い」といったドキュメントは、あまりにも生々しく、空恐ろしい。
「アップルという世界的な企業に、部品を納められるのは名誉だと喜んではいられない。日本の部品産業はアップルへの依存度を徐々に強め、かつて液晶で栄華を誇ったシャープですら、アップルからiPhoneやiPad向けの液晶パネルの受注がなくなれば、即座に経営が立ち行かなくなるほどの『依存症』となった。世界に誇ってきた日本製の最先端の電子部品、金属加工、自動工作機械なとはアップルを頂点とする強固な『帝国』の支配にすっぽりと入りこんでしまった」と指摘する。
本書は、「アップルに生殺与奪の権を握られた日本のものづくりの現場。アップル製品なしには売り場が作れない大手家電量販店。iPhoneによって顧客数が左右される通信キャリア。アップルをきっかけに構造転換を迫られる、音楽や映画などのコンテンツ産業」に対する叱咤激励の書なのだ。
「栄枯盛衰のサイクルがどんどん速まるデジタル家電業界で、巨大な購買力を誇るアップルとどのような距離を取るのか、それが日本メーカーの将来のビジネスを左右する『鍵』になり始めているといっても過言ではない」。「日本がまず始めるべきなのは、国境を超えて起きている劇的な産業構造変化の波に飛びこみ、スタートを切り直すことではないのか。それこそが、かつて栄光を手にした日本企業の再出発に欠かせない。そして、その担い手になるのは、もはや、現在の大手家電メーカーではないのかもしれない」と予測している。
著者は、「今後のIT産業におけるビジネスの重心が、ハードウェアと呼ばれる端末機器そのものから、端末をさらに便利にするソフトウェアやそれを基盤とした『プラットフォーム』と呼ばれるサービスに移行しつつある」とし、アップルでさえ今後とも安泰とは言えないと主張している。著者は、次に天下を取るのはアマゾン、グーグル、サムスンだろうと述べている。私には、そのサムスンにも綻びが兆しているように見えるのだが、素人の思い過ごしだろうか。