カラスの夫婦は浮気をしないんだって・・・【山椒読書論(107)】
あなたは、コクマルガラスという種類のカラスが、1年間の婚約期間を経て結婚すると。連れ合いが死ぬまで一夫一妻制を守るということを信じることができますか?
『ソロモンの指環――動物行動学入門』(コンラート・ローレンツ著、日高敏隆訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の著者、コンラート・ローレンツは、動物行動学・比較行動学の父として知られ、1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
動物が好きで好きで堪らない一人の男の、一緒に暮らした動物たちの行動の観察記録、それがこの本である。ローレンツ自身、「動物を飼いたいという願望は、文化を持つようになった人間が、自然という失われた楽園に対して抱く憧れなのだ」と言っている。
この本に中には、びっくりするような出来事がいっぱい詰まっているが、そのほんの一部を紹介すると――●コクマルガラスのオスが、惚れ込んだメスにプロポーズするときは「瞳が語る」のだ。彼らの恋愛時代の三角関係の経過には、思わず吹き出してしまう。そして、その夫婦愛は微笑ましく、感動的でさえある。●卵から孵ったばかりのハイイロガンのヒナは、著者を自分の母親と思い込んで(いわゆる「刷り込み<インプリンティング>」現象)、声も嗄れんばかりに鳴きながら、蹴躓いたり転んだりしながら著者の後を追って走ってくる。●人間の古くからの友であるイヌは、人間に従順なジャッカル系のイヌ(シェパードなど)と、たった一人の主人にしか忠誠を誓わないオオカミ系のイヌ(エスキモー犬など)に大別されるという。
この本は、あのアーネスト・トンプソン・シートンの『動物記』やジャン・アンリ・ファーブルの『昆虫記』の流れを受け継ぐ著作と言えようが、動物行動学の入門書として最適なものである。その後、ローレンツの学問上の主張と対立する意見も発表されているが、それはともかく、動物好きにはとっては堪えられない本である。学者が書いたとは思われぬほど分かり易く、著者と友人の手になる挿し絵も楽しいので、一気に読み終えてしまう。
この本は、子供も含めて家族みんなで読んでほしい。それにしても、動物と暮らすのが仕事というローレンツが羨ましいと思うのは、私だけだろうか。