榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読者に挑戦状を突きつける本格推理小説・・・【山椒読書論(394)】

【amazon 『模倣の殺意』 カスタマーレビュー 2014年1月18日】 山椒読書論(394)

模倣の殺意』(中町信著、創元推理文庫)は、ごつごつとした手触りの本格推理小説である。

「7月7日 午後7時――。坂井正夫は、死んだ。青酸カリによる中毒死である。自室のドアの鍵は、内側から施錠されていた。アパートの室内に、遺書らしいものはなにも発見されなかった。坂井正夫の死は、アパートの一部の住人たちを驚かせはしたものの、世間の注目を集めることもなく、厭世自殺として処理された。だが、その幾日かあとに・・・」というプロローグで始まる。

坂井に編集雑務を頼んでいた医学書系の出版社に勤める中田秋子は、彼の部屋で偶然行き合わせた遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を開始する。一方、ルポ・ライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするよう雑誌社から依頼され、調べを進めるうちに、坂井が漸くの思いで発表に漕ぎ着けた受賞後第一作が、さる有名作家の短篇の盗作である疑惑が持ち上がり、坂井と確執のあった編集者・柳沢邦夫を追及していく。

「事件」「追及」「展開」と進み、「真相」に至るが、その扉には、「あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください」という、著者が敬愛するエラリー・クウィーン張りの読者への挑戦状が記されている。

この作品は、一部のファンに熱烈に歓迎された一方で、推理小説界の大家たちからは評価されなかったという。プロットもトリックも確かに器用とは言えないが、読者があっと驚く本格推理小説を書きたいという著者の熱意が伝わってくる。海外、国内を問わず、著名な推理小説作家の本格推理物に籠もっている熱意と同種のものである。