私の宝物・・・【薬剤師のための読書論(5)】
【薬局新聞 2012年12月12日号】
薬剤師のための読書論(5)
東京駅・丸の内口からすぐの丸善・丸の内本店の4階に、松丸本舗という不思議な書店があった。「あった」と表現したのは、残念ながら2012年9月末日に幕を閉じたからである。読書の探究者、編集の冒険者にして、教育の夢追い人である松岡正剛がプロデュースした店内は、通常の書店とは様相を異にし、「知の迷路」ともいうべき非日常的な異空間であった。私も、しばしばこの不思議な世界を彷徨ったものである。店は消え去ろうと、ここで蒔かれた種が大輪の花を咲かす日は、そう遠くないだろう。
松丸本舗について知りたい向きには、『松岡正剛の書棚――松丸本舗の挑戦』(松岡正剛著、中公公論新社)、『松丸本舗主義――奇蹟の本屋、3年間の挑戦』(松岡正剛著、青幻舎)がある。
松丸本舗で開かれた勉強会で、松岡に「陽明学を少し勉強したいので、参考書を」と教えを乞うたところ、「参考書よりも、王陽明の原本を」と薦められたのが、『伝習録』(近藤康信著、鍋島亜朱華編、明治書院・新書漢文体系)であった。
『伝習録』は、近世最大の思想家・王陽明の言行録である。「心即理(私欲を取り除き、生まれながらの心の輝きを取り戻せ)」、「知行合一(その人の知識と行動が別々であってはいけない。知識は必ず実践するようにせよ)」、「致良知(人が生まれながらに持っている正しい知力を発揮せよ)」を唱え、空論を排した徹底的実践を説いている。
私の求めに応じ、「事上磨錬(日常の行動や実践を通して、知識や精神を磨け) 松岡正剛」と1ページ目に記された本書は、私の宝物である。
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