小さな山小屋の周辺で出会った春の動物たち・・・【山椒読書論(119)】
【amazon 『わたしの山小屋日記』 カスタマーレビュー 2012年12月19日】
山椒読書論(119)
『わたしの山小屋日記<春>――動物たちとの森の暮らし』(今泉吉晴著、論創社)は、何とも心和む本である。動物好きにとっては、身近に置き、折に触れて読み返したくなる、そういう種類の書である。
何がいいと言って、先ず、登場する動物たちがいい。珍しい特殊な動物というのではなく、どちらかと言えばありふれた身近な動物、著者が建てた小さな山小屋の周辺に現れる動物たちが主人公なのだ。
椅子に腰かけて本を読んでいる著者の足を登り、肩を踏み台にしてスギの幹に跳び移り、上へと登っていくリス。モグラと違い、土のトンネルからよく顔を出しているヒミズ(小さなモグラの一種)。夜空にキン、キン、キンと、鋭い金属音に似た鳴き声を響かせ、森の上空から接近してくるオヒキコウモリ・・・。
そして、この山小屋がいい。山梨の森の中に建てた山小屋も、岩手の森の中に建てた山小屋も、6畳一間の小さな小屋である。森を訪れても動物に出会うのは難しい。でも、山小屋で暮らせば森の動物に会えるという著者の目論見が、見事に当たったのである。
さらに、動物たちのカラー写真がいい。著者の動物に寄せる愛情を感じ取った動物たちの表情が実に微笑ましいのだ。
知人が道に落ちていたと持ってきてくれたムササビの赤ちゃんが、ミルクをたっぷり飲んで満腹となり、著者の掌で眠りについたときの満足げな表情。著者が取り付けた巣箱の出入り口から大きな目で外の様子を窺う子育て中のモモンガのお母さん。著者のカメラのストロボの光に驚き、大きくジャンプする親指ほどの小さなヒメネズミの子供・・・。
<春>を読み終わるや否や、本シリーズの<夏>が無性に読みたくなってしまった私。