榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

願は(わ)くは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ・・・【ことばのオアシス(112)】

【薬事日報 2013年1月30日号】 ことばのオアシス(112)

願は(わ)くは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ

――西行

桜を愛した歌人・西行の辞世とされている一首。

しかし、『長秋詠藻』に、「年(1189年)の果てのころ京に上りたりと申ししほどに、二月十六日になんかくれ侍りける。彼の上人先年に桜の歌多く詠みけるなかに」と記され、上掲の歌が続いている(『西行と清盛』<五味文彦著、新潮選書>)。この歌のとおり、文治6(1190)年の如月(きさらぎ。陰暦の2月)の望月(15日の満月)の頃に亡くなったので、人々から、さすが西行と感嘆されたのである。「先年に」詠んだ歌なので辞世とは言えないが、予ての思いが叶い、西行も満足だったことだろう。

因みに、陰暦の2月16日は、ユリウス暦では3月23日に当たる。

共に1118年に生まれた西行と平清盛。『西行と清盛――時代を拓いた二人』には、歌の世界に生きた西行、武・政の世界に生きた清盛と、一見、両極端に位置する二人の人生の交錯が実証的に述べられている。