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高倉健は山本周五郎の何にそんなに惹かれたのか・・・【山椒読書論(138)】

【amazon 『男としての人生』 『山本周五郎が描いた男たち』 カスタマーレビュー 2013年2月16日】 山椒読書論(138)

映画俳優・高倉健の座右の書として知られる『男としての人生――山本周五郎のヒーローたち』(木村久邇典著、グラフ社)は、古書相場で驚くほどの高値が付けられている。

実は、全く同じ内容の本がもう一つ存在する。『男としての人生』を改題・新装復刊した『山本周五郎が描いた男たち――さまざまな男の心情 15の物語』(木村久邇典著、グラフ社)がそれである。しかし、残念なことに、こちらにも古書相場で同様の高値が付けられている。

高倉健は、この本のどこにそんなに惹かれたのだろうか。

「男の見切り――『虚空遍歴』の中藤冲也」、「男の賭け――『赤ひげ診療譚』の新出去定・保本登」、「男の宥し――『藪の蔭』の安倍休之助、『ちくしょう谷』の朝田隼人」、「男の献身――『さぶ』のさぶ・栄二」、「男の求道――『内蔵允留守』の岡田虎之助」、「男の誇り――『ちゃん』の重吉」、「男の情愛――『つばくろ』の紀平高雄、『四日のあやめ』の五大主税介」、「男の宮仕え――『蕭々十三年』の天野半九郎、『松風の門』の池藤小次郎」、「男の秋霜――『晩秋』の進藤主計」、「男の饒舌――『おしゃべり物語』の上村宗兵衛」、「男の打算――『葦は見ていた』の藤吉計之介」、「男の最期――『城中の霜』の橋本左内」、「男の功名――『水の下の石』の加行小弥太」のどれも読み応えがあるが、特に、「男の忍耐――『樅ノ木は残った』の原田甲斐」と「男の頑張り――『ながい坂』の三浦主水正(もんどのしょう)」が強烈な光を放っている。

昭和文学の最高傑作の一つと称される『樅ノ木は残った』は、仙台藩伊達家の寛文事件と呼ばれるお家騒動の悪役とされてきた原田甲斐が、実は、事件の渦中に巻き込まれ、複雑怪奇な政治の動きの中でその非情なメカニズムと対決し、主家の崩壊を阻止するために汚名を被って死んでいった人物だったとする長篇小説である。山本周五郎は、このように生きたいと願った理想像を、甲斐に託して描いたのだと言われている。

周五郎最後の長篇小説『ながい坂』は、無気力な軽輩の子に生まれた三浦主水正が、前面に立ちはだかる数々の障壁を一つひとつ確実に乗り越え、いくつかの幸運に恵まれるという面もあったが、自分の力で遂に城代家老の地位を勝ち取るまでの物語である。『なかい坂』という書名は、周五郎が敬愛した徳川家康の家訓と伝えられる「人の世は重き荷を負いて遠き道を行くがごとし、急ぐべからず」の「遠き道」から発想されている。

周五郎は、小学校を卒業した13歳の時、東京・木挽町の質屋・山本周五郎商店に住み込みの徒弟として奉公する。周五郎はこの商店の主人を終生の恩人と慕い、その名を自らのペン・ネイムとしたのである。