動物たちは自然の中でしっかり学んでいる・・・【山椒読書論(144)】
大好きな食べ物を大事に大事に少しずつ味わうように読んできた「わたしの山小屋日記」シリーズも、とうとう最終章を迎えてしまった。寂しい限りである。
『わたしの山小屋日記<冬>――動物たちとの森の暮らし』(今泉吉晴著、論創社)は、「新雪がすっぽり地面をおおったある初冬の朝、わたしは山小屋の南側の広い尾根に出ました。きらめく雪原はカモシカ、シカ、キツネ、テン、ノウサギ、それにヤマドリなどの足跡でいっぱいでした」と、何とも魅力的な描写から始まる。
著者は、「アカネズミは、クルミ(オニグルミ)の殻にふたつの穴を開けて、中身を食べます。なぜ、ふたつなのでしょうか」と語りかける。「アカネズミがクルミに開けた穴の写真を、ご覧ください。穴の奥に仕切りが見えます。穴から取り出せるのは、仕切りの手前の中身です。そこで、その中身を食べた後、向こう側の中身を食べるためにもうひとつ開けた、と推理できます。となると、アカネズミはクルミの殻には仕切りがあり、中身が分かれている、と知っています。それに、殻のどこに穴を開けたらいいかも知っています」。著者は、この推理が当たっていることを、実験によって証明するのだ。
「雪は動物には脅威です。機敏な動きをにぶらせ、天敵の餌食にされる恐れが増します。では、木の枝の上を道にするリスは、枝に積もる雪をどうするのでしょうか。・・・その日、わたしは雪がいつもより高く積もったリスの道を前にして、とまどうリスの表情を見ました。でも、リスがとまどったのはほんの十数秒でした。リスはふだんより大きくジャンプするギャロップ(ウサギ跳び)で、雪の上に跳び上がり、ふだんどおり手をつき、足をつきました。ただ、雪が深くて手足は雪にじゃまされ、リスの道の棒につめを立てることができませんでした。この後、足をすべらせ棒から落ちそうになり、手のつめを棒にかけて体をとめ、すぐにリスの道に登って、体勢をととのえました。リスは、リスの道に鳥のように横にとまって、考えました。そして、同じ進み方でだいじょうぶと判断したようです。・・・おそらくリスは、積もった雪は用心して進めば克服できると知った、とわたしは考えます」。リスは雪の日の走行法をこのように学ぶというのである。
続刊を望むのは、私だけだろうか。